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8月14日の小話

おの字
   むかし、むかし。
   むすめがおよめにいくというので、おっかさんが言いました。
  「お前はことばづかいがわるいから、気をつけるんだよ。なんでも、おの字をつけて、ていねいに言わないと、わらわれるからね」
  「なんでも、おの字をつけて言えばいいんだな。わかった」
   それから、ぶじにこんれい(けっこんのぎしき)がおわり、むすめはおよめさんになったのですが、あるとき、むすめはおしょうとめ(おむこさんの母親)に、いいました。
  「お台どころの、おすりこぎぼうが、お風にふかれて、おころん、おころんと、おなっています」
   それを聞いた、おしゅうとめさんが、
  「ていねいなのはいいが、そんなに、なんにでも、『お』をつけるもんじゃない」
  と、ちゅういしました。
   しばらくして、むすめがさと帰りをした時、その時の話しをすると、おっかさんは、
  「おしゅうとめさんの言う通り。あんまり『お』ばかりつけるのも、おかしいよ」
  と、言います。
   およめさんがさとから帰ると、おしゅうとめさんがききました。
  「さとでは、みなさん、おかわりなかったですか」
   およめさんは、あまり『お』をつけるな、と言われたのを思い出して、答えました。
  「はい、やじも、ふくろも、元気」
   これには、おしゅうとめさんもあきれてしまいました。
 そして、こんなおよめさんではこまるというので、とうとう、さとに帰されてしまったそうです。
おしまい