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4月25日の世界の昔話
  
  
  
  キツネと獲物
  フィンランドの昔話 → フィンランドの国情報
 むかしむかし、漁師が魚をいっぱい大きなカゴにいれて、こおった道を引っぱって歩いていました。
  「ああ、こんなにたくさん魚がとれたのは久しぶりだなあ。家で待っているおかみさんは、どんな顔で喜んでくれるだろう」
   漁師は、おかみさんのうれしそうな顔と声を思いうかべて、ニッコリほほえみました。
   すると、道のまん中にキツネがたおれていました。
   どうやら、死んだキツネのようです。
  「こりゃいいや。今日はついてるぞ」
   漁師はキツネをヒョイと抱きあげ、カゴの魚の上にポンとおいて、またニッコリほほえみました。
  「こいつで、あたたかいえりまきを作ってやれるぞ」
   漁師は家に帰ると、おかみさんに言いました。
  「おーい、今夜はごちそうだぞ。おまけにプレゼントもあるぞ」
   そして、カゴの中をみたとたん、
  「ああっ!」
  と、さけんでしまいました。
   なんとカゴには、キツネも魚もないのです。
   漁師は大きなカゴをひっくり返して調べましたが、穴など開いていません。
  「しまった。これはキツネにだまされたんだ!」
   漁師はガッカリして、肩をガクンと落としました。
   じつはキツネは、カゴいっぱい魚をつんだ漁師を見て、死んだふりをしていたのです。
   そして、思った通りに魚の上にのせてくれたので、一匹ずつ魚を道に落とし、最後の一匹を道に投げると、キツネは漁師にわからないようにカゴから飛びおりて、大急ぎで落とした魚を次々とひろいながら、森へ帰って行ったのでした。
   魚をたくさん持って森へ帰ってきたキツネを見つけて、オオカミがたずねました。
  「そんなにたくさんの魚、どうしたんだい?」
   キツネはすまして、こう答えました。
  「かんたんさ。村の井戸(いど)にしっぽをたらしておいたら、ごらんのとおりさ。魚がドンドンくいついて、もう大変だったよ」
  「ふーん。それはいいことを聞いたぞ」
   オオカミはすぐに村の井戸へ走って行き、自分のしっぽを井戸の中にたらしました。
   キツネは魚をおなかいっぱい食べてから、村へ出かけていきました。
   そして、一軒のお百姓さんの家へ行き、大声で言いました。
  「大変だ。井戸でオオカミがウンチをしてる!」
   それを聞いた家のおかみさんが、棒を持って飛び出してきました。
  「なんだって! 大切な井戸水にウンチだなんて、じょうだんじゃないよ!」
   おかみさんは近所中のおかみさんをよび集めて、井戸へ走って行きました。
   それを知って、オオカミはビックリです。
   あわてて逃げようとしましたが、こおった井戸水にしっぽがしっかりかたまってしまい、しっぽがぬけません。
   おかみさんたちは、
  「このオオカミめ! ただじゃすまないよ!」
  と、持ってきた棒でオオカミをポカポカなぐりました。
   一方、キツネはおかみさんが出て行った台所にしのびこみ、バターのツボに手をつっこみました。
   そしてペロペロとなめると、今度は頭から足まで体中にバターをぬりました。
   そうして台所をぬけ出し、いちもくさんで森へ走ってかえりました。
   森にたどりつくと、キツネはうずくまってオオカミを待ちました。
   しばらくして、オオカミはキズだらけで帰ってきました。
   ボロボロになったしっぽからは、血が出ています。
   オオカミはキツネを見ると、かみつきそうないきおいでどなりました。
  「やい! お前のせいでひどい目にあったぞ!」
   するとキツネは、ウーン、ウーンと、くるしそうなうなり声をあげてオオカミを見あげました。
  「まあ、そう言わないでくださいよ。わたしもあなたと同じように棒でたたかれて、頭から脳ミソが出てしまったのですから」
   オオカミは、ベトベトにぬれたキツネの頭と体を見ると、
  「そうか、お前の方が大変だったな。よし、おぶってやるよ」
  と、キツネを家まで送ってやりました。
   キツネはオオカミの背中で、ニヤリと笑うと、
  「どうもありがとう、オオカミさん」
  と、いって、バターのついたベトベトの手をおいしそうになめました。
おしまい