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5月10日の世界の昔話
  
  
  
  カムイルのぼうけん
  ロシアの昔話 → ロシアの国情報
 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
   なに不自由なく、くらしていましたが、ただ悲しいことに、二人には子どもがありませんでした。
   ある日おばあさんが、おまんじゅうをつくっていました。
   おじいさんはそばにすわってながめていましたが、ねり粉をひとつまみちぎりながら、ふと、こんなことをいいました。
  「なあ、わしらには息子がない。せめて、このねり粉で子どもをつくろう」
   おじいさんとおばあさんは、ねり粉で小さな男の子をつくって、腰かけの上におきました。
   それから二人は、しごとにかかりました。
   おばあさんは、メスウシの乳をしぼりにいきました。
   おじいさんは、たきぎを切るためにうら庭ヘいきました。
   しばらくして、おじいさんとおばあさんは家にもどってきてビックリ。
   なんとねり粉の男の子が、ほんとうの人間の子になっていたのです。
   ねり粉の男の子はゆかにすわって、子ヤギと遊んでいるのです。
   おじいさんとおばあさんは、夢かとばかり喜びました。
  「わたしたちの息子に、なんて名まえをつけましょうかね?」
  と、おばあさんがたずねると、
  「ねり粉でつくった子どもだ。カムイルという名にしよう」
  と、おじいさんがいいました。
   カムイルというのは、タタール語で、ねり粉のことです。
   カムイルは、ズンズンと大きくなり、すごい力もちになっていきました。
   ある日、カムイルはおもてへ遊びにいって、子どもたちとすもうをとりはじめました。
   カムイルは一人の子どもを持ちあげて、木よりも高くほうりあげてしまいました。
   その子は地面におちると、そのまま動けなくなりました。
   怒ったほかの子どもたちは、いっせいにカムイルにとびかかりましたが、ところが反対に、カムイルはみんなをかたっぱしからやっつけてしまいました。
   これを知った村の人たちは、そろって、おじいさんのところへおしかけました。
  「こんなおそろしい子は、一日もこの村へはおいておけない。どこかへやっておくれ。さもないと、村じゅうの子どもが、けがをさせられてしまう」
   しかたがありません。
   おじいさんとおばあさんは、カムイルを旅にだすことにしました。
  「お父さん、お母さん、心配しないでください。遠くの国へいって、そこの人たちがどんなくらしをしているか見てきます。そうだ、ぼくに棒を一本ください。ほかにはなにもいりませんから」
   おじいさんは、棒を持ってきました。
   ところがカムイルが、その棒をかるく引っぱると、棒はまっぷたつにおれてしまいました。
  「これじゃだめです。かじやにたのんで、鉄棒を作ってもらえませんか?」
   やがてりっぱな鉄棒ができてくると、カムイルは、その鉄棒をビュンビュンとふりまわしてみました。
  「これならいい。とっても丈夫だ。じゃあ、いってきます」
   おばあさんはお菓子を焼いて、カムイルに持たせました。
   カムイルは鉄棒とお菓子を持って、村からでていきました。
   どんどん歩いていくと、森にでました。
   むこうから一人の男が、ノロノロとやってきました。
   見ると、その男は両足をしばられているので、やっとのことで歩いています。
  「どうしたんだい? だれに足をしばられたんだい?」
  「自分でしばったのさ。このひもをといたら、鳥だって追いつけないくらい、はやく歩きだしてしまうんでね」
  「それで、どこへいくつもりだい?」
  「さあて、どこへいくか自分でもわからないんだ」
  「それじゃ、いっしょにいかないか?」
   二人は、いっしょに旅をつづけました。
   ドンドン歩いていくうちに、二人はおかしな男にであいました。
   男は道ばたに腰をおろして、指で鼻をおさえているのです。
  「きみ、きみ、どうして、鼻をおさえているんだい?」
   カムイルが、男にたずねると、
  「鼻をおさえていなかったら、たいへんなことになるんでね」
  と、男はいいました。
  「なにしろ、片っぽうの鼻の穴をほんのチョッピリでもあければ、おれの鼻息で近くの家のひきうすが、みんなまわりだしてしまうんだ。両方の鼻の穴をあけたりしたら、それこそ大地震がおきてしまうだろうよ」
  「それはすごい。ぼくたちといっしょに、旅にいかないか?」
  と、カムイルがたずねました。
  「ああ、いいとも」
   三人はそろって、旅をつづけました。
   ドンドンいくうちに、白いひげをはやしたおじいさんにあいました。
   そのおじいさんはボウシをかぶっていましたが、ふつうのかぶりかたとはちがって、かたほうの耳にだけ、ボウシを乗っけているのです。
  「おじいさん、どうしてそんなかぶりかたをしているんだい?」
  と、カムイルがたずねました。
  「こういうふうにかぶるより、しょうがないからさ。なにしろボウシを頭にかぶせたりすれば、たちまちふぶきがおこるんでな。ちゃんと深くかぶったりすれば、世界じゅうが、こおりついてしまうんだよ」
   カムイルは、おどろいていいました。
  「おじいさん。ぼくたちといっしょにいかないか?」
   四人がいっしょに歩いていくと、弓を持った男にあいました。
   その男は、弓でなにかをねらっていました。
   けれども、なにをねらっているのかけんとうがつきません。
  「いったい、なにをねらっているんだい?」
  と、カムイルはたずねました。
  「ハエだよ」
  と、弓をかまえた男はこたえました。
  「ハエはここから六十キロメートルさきの、山の木の枝にとまっているんだ。あいつの左の目玉を、いぬいてやりたいのさ」
   カムイルはすっかりおどろいて、その弓を持った男を旅のなかまにいれました。
   五人が歩いていくと、一人のおじいさんにであいました。
   そのおじいさんはしゃがんで、土を、こっちの手からあっちの手へとうつしています。
  「おじいさん。なにをしているんだい?」
  「わしが土をまけば、まいたところに山ができるんだよ。あっちにも、こっちにもな」
   カムイルは、このおじいさんもなかまにさそいました。
   六人は、大きな町にやってきました。
   この国には、美しいお姫さまがいました。
   一目でお姫さまを好きになったカムイルは、お姫さまに結婚を申しこむために、みんなをつれて王さまのご殿ヘいきました。
   けれども王さまは、どこのだれともわからない若者に、だいじな娘をやりたくはありません。
   そこで王さまは、なんとかしてことわろうと思って、ちえをしぼりました。
   そして王さまはいいました。
  「おまえたちの中に、わしの家来のはや足男よりもはやいものがいたら、姫をやることにしよう」
   王さまは家来の中で一番足のはやい、はや足男をよんで、たかい山まで走っていくようにいいつけました。
   はや足男は、むちゅうでかけだしました。
   さて、カムイルのなかまの足じまんは、ゆっくりと足の革ひもをほどいてから、あとを追いかけました。
   ゆっくり追いかけたのに、足じまんは、たちまち王さまの家来を追いこして、ひとっとびに山へつきました。
   足じまんは草むらにねころがって、王さまの家来がくるのをまちました。
   そのうちにまちくたびれて、ぐっすり、ねこんでしまいました。
   王さまの家来は山にかけつけると、さっと、ひきかえしました。
   けれども足じまんは、あいかわらずねむっています。
   やがて、道にほこりがまいあがって、王さまの家来がもどってきました。
   それを見ると、カムイルは心配になって、弓じまんにいいました。
  「どうやら、足じまんはいねむりをしているらしい。ぐずぐずしていると負けてしまう。あいつをうって、目をさまさしてやってくれないか」
   弓じまんは肩から弓をおろすと、ねらいをさだめて矢をはなちました。
   矢は、ねむっている足じまんの耳のところを、すれすれにかすめました。
   足じまんはビックリして、目をさましました。
  「ありゃ、寝過してしまった。すこし急ぐとするか」
   足じまんはそういうと、庭をさんぽするような足取りで、たちまち王さまの家来を追いこしてしまいました。
   王さまは、せっかくの作戦がしっぱいしたのを知ると、カムイルにいいました。
  「よろしい。それではやくそくどおり姫をあげよう。だがそのまえに、風呂にはいってきなさい」
   王さまはカムイルたちを鉄の風呂にいれて、むし焼きにしようと思ったのです。
   カムイルは、そんなこととは知りません。
   なかまたちといっしょに、王さまの鉄風呂にいきました。
   みんながお風呂にはいったとたん、王さまは、外からしっかりとカギをかけました。
   そして山のようなたきぎを、ドンドンくべさせました。
  「これで、あいつらも生きてはでてこられないだろう」
   さて、お風呂があつくなってくると、カムイルは白ひげのおじいさんにいいました。
  「おじいさん。ボウシをかぶってくれよ」
   おじいさんは、ボウシを頭のてっぺんにかぶりました。
   すると鉄風呂の中で、ふぶきがまきおこりました。
   けれども、ふぶきぐらいでは、まだお風呂はつめたくなりません。
   おじいさんは、ボウシを深くかぶりました。
   そのとたん、お風呂の壁はたちまちこおりついて、厚い氷でおおわれました。
  「おじいさん、やりすぎだ! もう少しゆるめてくれ!」
   あくる朝、お風呂のようすを見にきた王さまはビックリ。
   むし焼きにしたはずのカムイルたちが、元気な顔で出てきたからです。
   カムイルは、王さまにいいました。
  「王さま、はっきりいってください。お姫さまをくださるんですか? くださらないんですか?」
  「やるもんか! おまえなんかにぜったいやらん! とれるものなら、とってみろ!」
   王さまはさけぶと、家来たちにあいずをしました。
   王さまの家来たちは、カムイルとなかまたちにとびかかりました。
   そこでカムイルは、鼻をつまんでいる鼻息じまんに、ちょっと息をふきかけてくれとたのみました。
   するとたちまち、おそろしいあらしがおこって、王さまの家来たちは一人のこらず、ホコリのようにふきとばされてしまいました。
   すると、山づくりのおじいさんがいいました。
  「こっちヘぱらぱら山をつくろう。あっちヘぱらばら山をつくろう」
   高い山が二つできて、王さまの家来たちをうめてしまいました。
   それでもまだ、王さまはこうさんしません。
   こんどは、軍隊をよびました。
   おおぜいの軍隊が、カムイルめがけておしよせてきました。
  「さて、おれもいいところを見せるか」
   カムイルは鉄棒をビュンビュンふりまわして、軍隊をなんなく追いちらしてしまいました。
   王さまはおそろしくなって、やっとお姫さまとの結婚をゆるしました。
   カムイルは花よめをウマに乗せて、なかまたちといっしょにおじいさんとおばあさんのところへ帰りました。
   それから三十日間も宴会(えんかい)が開かれて、四十日間も結婚式がつづいたということです。
  
   ※このお話しは、グリム童話の「6人の男が世界をあるきまわる」の原作だといわれています。
おしまい