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5月11日の世界の昔話
  
  
  
  スガンさんのヤギ
  ドーデの童話 → ドーテ童話の詳細
 ヤギ飼いのスガンさんは、ヤギでいい思いをしたことがありません。
   これまでたくさんのヤギを飼ってきましたが、ヤギたちはいつもつなを引きちぎって、山へ逃げ出してはオオカミに食ベられてしまうのです。
   でもスガンさんは、あきらめませんでした。
  「今度は、もっと家になつくように、うんと若いヤギを飼うことにしよう」
   こうしてスガンさんの家には、まっ白な毛に包まれた、ピカピカに美しいメスのヤギがくることになりました。
   ヤギはおとなしい性格で、乳をしぼられるときもジッとしています。
  「やっと、おれの家にいい子がきてくれたぞ」
   スガンさんは、大喜びしました。
   けれどそれは、とんだ思いちがいでした。
   ヤギは毎日、山の方をながめながら考えていました。
  「ああ、森や林の中を自由にかけ回れたら、どんなにかしあわせでしょう」
   そのうちにヤギはやせてきて、お乳の出も悪くなってきました。
  「ねえ、スガンさん、わたしを山へいかせてください」
   ある日、ヤギが言いますと、
  「草が足りないのか?」
   スガンさんは、聞き返しました。
  「いいえ」
  「じゃあ、どうしてほしい?」
  「山へ行きたいんです。スガンさん」
  「だめだ。山にはオオカミがいるんだぞ!」
  「大丈夫。ツノで、ついてやります」
  「だめだ。だめだったら、だめだ」
  「おねがい。どうしても行きたいのです!」
   あんまりききわけがないので、スガンさんは腹をたてると、ヤギをまっ暗な小屋に、おしこめてしまいました。
   けれどスガンさんが戸をしめたときには、すばしこいヤギはまどから外へ逃げ出していたのです。
   ヤギはいちもくさんに山へかけあがると、色とりどりの草を食べて、しげみの中をころげまわりました。
   もう、じゃまなつなも、くいもなければ、毎日、あじけない芝草(しばくさ)をがまんして食ベることもないのです。
   ヤギは岩場に横になると、はるか山すそに見えるスガンさんの家を見おろしました。
  「なんてちっぽけな所に、わたしはとじこめられていたんだろう。でも、もう自由だわ。アハハハハ」
   ヤギは、涙が出るほど笑いました。
   ところが、日がくれかかり、あたりが暗くなりはじめますと、
  「ワォーーーーン」
   どこからか、オオカミのとおぼえが聞こえてきました。
   谷間からは、スガンさんのヤギをよぶラッパの音がひびいてきます。
   けれどヤギは、二度と小屋へ戻るつもりはありません。
  と、そのとき、すぐ後ろにギラギラと光る2つの目玉がせまっていました。
   オオカミです。
   ヤギは夢中でツノを突き立てると、オオカミにいどみました。
   スガンさんのヤギは、良くたたかいました。
   なにしろ、夜明けまでがんばったのですから。
   けれど、朝にはオオカミのえじきになってしまったのです。
おしまい