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6月5日の世界の昔話
  
  
  
  力持ちのノミ
  ルーマニアの昔話 → ルーマニアの国情報
 むかしむかしの、夏のあつい日。
   牧場(ぼくじょう)ではたらいている男が、町に住む主人のところへミルクやチーズをはこぼうと、ロバをウマ小屋からひきだして、したくをはじめました。
   はじめにロバの背中に、クッションとなるワラをしきました。
   ワラの上に木のくらをおき、くらの上に布をかけました。
   さて、こんどは荷物をつむ番です。
   まず、ミルクをいれた大きなツボを四つ、ロバの右と左に二つずつつけました。
   それからヤギのチーズのかたまりを八つ持ってきて、右と左に四つずつつけました。
  「やれやれ、これでつみおえた」
   ところがそのとき、たいへんなことを思いだしました。
   主人のおじょうさんとおぼっちゃんが、とまりがけで遊びにきていたのです。
   この二人を、送っていかなくてはなりません。
   男は主人の子どもたちを、くらの上に背中あわせですわらせました。
   とちゅうでけんかをされたら、こまるからです。
   これだけのことをすると、男はヘトヘトにつかれました。
   ロバも、しんどそうな顔をしています。
   そのとき、どこからともなく一ぴきのノミがやってきて、ピョーンと、男のそでにとびあがりました。
   それからノミはロバにとびうつって、キョロキョロとあたりを見まわし、ロバの背中のやわらかなワラのあいだにもぐりこみました。
  「しめ、しめ。いい日かげがあったぞ。ちょいと、ひるねでもするとしよう」
   さて、男とロバは町へ出発しました。
   太陽がジリジリと、やけるようなあつさです。
   男は川からあがったように、あせビッショリになりました。
   ロバは、あんまり荷物がおもいので、足がフラフラです。
   ロバの上の子どもたちも、グッタリしていました。
   ところがノミは、ロバの背中のやわらかいワラにもぐりこんで、まるでゆりかごにゆられているように、いい気持でねむっていました。
   ノミが目をさましたのは、男がやっと、町の主人の家へたどりついたときでした。
   ノミはワラからはいだしてみて、ビックリしました。
  「これはまた、すごい荷物だ! まるで山のようだ」
   ノミは自分がこれだけの荷物を、はこんできたような気がしてきました。
   ノミは、とくいそうにさけびました。
  「おーい、みんな。このおれさまがかついできた荷物を見てくれ! ものすごいおもさだぜ。どうだい。たいした力もちだろう」
   ノミはウキウキして、男のそでにとびうつりました。
   男は主人の子どもたちをおろしてから、荷物をつぎつぎとおろしました。
   それからロバのくらをはずして、ロバのからだをさすってやりました。
   それを見たノミは、腹をたてておこります。
  「なんてこった。おもい荷物をかついできた、このおれさまのことはほっといて、ロバのやつばっかりチヤホヤしていやがる。ロバのやつ、ろくなこともできないくせに、いい気になってるな。ようし、こいつをやっつけてやれ」
   ノミはピョーンと、ロバの鼻にとびうつって、チクリとかみついてやりました。
   ビックリしたロバはあばれだして、そばのミルクツボをひっくりかえしてしまいました。
   それをみた男は、ロバの鼻をなぐりつけました。
   プチッ!
   ロバの鼻にとまっていた力もちのノミは、たたきつぶされて、かげもかたちもなくなってしまいました。
  
   できもしないことでいばったりすると、こんな目にあいますよ。
おしまい