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9月26日の世界の昔話
  
  
  
  ちいさなヘーベルマン
  シュトルムの童話 → シュトルムの童話の詳細
 むかしむかし、お月さまがときどき、人間とおしゃべりしていたころのお話です。
   ある夜、お月さまは、ヘーベルマンという名前の男の子を見ていました。
   へーベルマンは、ベッドにはいっているのに、目はパッチリあけて片足を高くあげてます。
   その足にシャツをひっかけて、シャツのそでを両方の手でひっぱって、ふーっと息をふきかけます。
   するとシャツはフワッとふくらんで、風をうけて走る船の帆(ほ)そっくりになりました。
   そのとき、お月さまはちょっぴりサービスしたくなって、月の光をヘーベルマンのまどに投げかけて、月の道を作ってあげました。
   そのとたん、へーベルマンの車つきベッドはフワリとうかび、月の道へとすべり出したのです。
   月の道は町の通りへと続き、ヘーベルマンのベッドは、通りをガラガラと音をたてて走り出しました。
   ヘーベルマンは、それはもう大喜び。
  「お月さま。もっとスピードあげてよ」
   そうさけんで、ほっぺをふくらませ、ふーっとシャツの帆をふくらませます。
   ガラガラ、ガラガラと、ベッドの船は走ります。
   夜中の静まりかえった通りをさんざん走りまわると、お月さまが言いました。
  「さあ、へーベルマン、そろそろおしまいですよ」
   ヘーベルマンは、お月さまをにらんでいいました。
  「やだやだ。まだまだ!」
   へーベルマンは息を吹いて、帆をふくらませ、ベッドの船を森へと走らせました。
   お月さまは、ベッドの船が木にぶつかりやしないかと、ヒヤヒヤしながら月の光で森を明るくてらします。
   けれどヘーベルマンは、お月さまの心配などおかまいなしです。
  「おーい、だれが遊ぼうよー」
   でも、動物たちはグッスリねむっていて、起きては来ません。
   お月さまは、言いました。
  「ヘーベルマンも、もう帰ってねましょう」
  「やだやだ。まだまだ!」
   へーベルマンは、ますます目をパッチリ開けて、森をぬけて、新しい町から知らない村へ、とうとう世界一周走りまわりました。
   ついていったお月さまは、もうヘトヘトです。
  「ヘーベルマン、おしまいにしてちょうだい」
  「やだやだ。まだまだ!」
   へーベルマンは、大きく大きく息を吸いこむと、ふーっと思いっきりシャツの帆をふくらませました。
   するとベッドの船はいきおいがつきすぎて、ビューと空へ飛んで行きます。
   おどいたのは、夜空にかがやく星たちです。
  「キャアー! こわい!」
  と、あっちへ逃げこっちへ逃げ、夜空は流れ星だらけでメチャクチャです。
   しかしへーベルマンは、楽しくてたまりません。
   流れ星を追いかけまわして、とくべつに大きな星をつかまえようとしました。
  「へーベルマン、今度こそ、おしまい!」
   お月さまがどなりましたが、
  「やだやだ。まだまだ!」
   ヘーベルマンは調子(ちょうし)に乗って、お月さまの顔の上をベッドの船で走りぬけました。
   お月さまの顔の鼻の上に、ヒゲが二本つきました。
   ヘーベルマンはそれを見て、ゲラゲラと笑いました。
   お月さまはカンカンに怒って、月明りをパチッと消しました。
   そのとたん、星たちも光るのをやめました。
   たちまち、空はまっくらやみで、何も見えません。
   へーベルマンは、あわててさけびました。
  「お月さまー! 出てきてよー! お月さまー!」
   自分の手も足も何も見えなくて、へーベルマンはこわくて泣き出しました。
   すると、空がうっすらと明るくなりました。
  「ああ、よかった。また、お月さまが出て来た」
   へーベルマンがニッコリほほえむと、いきなりどなられました。
  「わしの空でイタズラするのは、お前だな!」
   それはお月さまではなく、ギラギラと光るお日さまでした。
   お日さまは、やけどするくらいあつい光の手でへーベルマンをつかむと、それっ! と海にむかってなげました。
   ドボーン!
   へーベルマンは、海に落ちました。
  「たすけてよー! もう悪いことはしませーん! ちゃんと言うことをききまーす!」
   すると、お月さまがまた出てきて、ヘーベルマンをお家に返してくれたのです。
おしまい