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10月7日の世界の昔話
  
  
  
  十二月の贈り物
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 むかしむかし、とてもまずしいけれど、仲良くくらしている家族がありました。
   でも、子供十人をおなかいっぱい食べさせるのはとても大変で、お父さんは今の仕事をやめて、もっともうかる仕事を探しに旅に出ることにしました。
   歩き続けて山にはいると、一軒の小さな家がありました。
   家の前には、二人の男が立っています。
   お父さんは、近づいて行ってたのみました。
  「すみません。仕事を探しに行く途中なのですが、今夜一晩、泊めてもらえませんか?」
   中にいれてもらうと、部屋には十二人の男たちがテーブルをかこんでお茶をのんでいました。
   お父さんがすわると、となりの男が声をかけました。
  「仕事を探しに行くそうだね。ところであんたの土地の一月は、どんな具合なんだ?」
  「はい、寒い日もありますけど、でも一月は身が引きしまるので、私は一月が好きですよ」
  「二月は、どんなふうかね?」
   今きいた男の、となりの男がたずねました。
  「二月は冷たい風の中に春のにおいがして、気持ちが明るくなりますよ」
  「なら、三月は好きかな?」
   そのまたとなりの男が聞き、となりからとなりへ順番に聞きました。
  「ええ。三月は、あたたかくていい気持ちですよ」
  「では、四月はどう思う?」
  「四月はピクニック。家族が幸せになる月です」
  「五月は?」
  「花がさき、鳥がうたい、楽しい月です」
  「六月は、どうだね?」
  「ムギが大きくなる、ありがたい月です」
  「七月は、いかがかな?」
  「ムギのかり入れが始まる月です。ウキウキします」
  「八月は?」
  「天気が良くて、家族全員が元気に過ごせます」
  「九月は、どうですかね?」
  「九月はお祭があって、村中で喜びます」
  「十月は、どうじゃ?」
  「ブドウのとり入れ月です。思い出しても笑顔になります」
  「十一月は?」
  「落ちついた、いい月です。私は好きです」
  「十二月は、どう思うかな?」
  「クリスマスがありますからね。子供たちと一緒に、楽しみにしています」
   お父さんが言い終わると、十二人の男たちは、テーブルの上に一本の棒(ぼう)をおいて言いました。
  「わしらは、みんなあんたが気にいった。この棒をあんたにあげよう。家に帰ったらテーブルにおいて『棒よ、作れ』と言ったらいい。あんたのほしいものを出してくれるはずじゃ」
   お父さんは棒を持って家に帰ると、さっそく、子供たちとお母さんを集めて、テーブルの上に棒をおいて言いました。
  「棒よ、作れ」
   すると、棒がカタカタと動き出したかと思うと、あっという間に、テーブルの上に金貨の山やすてきな洋服やたくさんのごちそうがならんだのです。
  「わあ、すごいや!」
   子供たちは、大喜びでごちそうを食べ始めました。
   たった一日で大金持ちになったこの家族を見て、となりの家の欲張り男が不思議に思ってたずねて来ました。
   お父さんは、山の中の一軒家であったことを話しました。
  「聞かれたことに正直に答えたら、この棒をくれたのさ」
   そう教えられると、欲張り男はさっそくボロボロの服を着て、山へ出かけて行きました。
   そして一軒家を見つけると、中にはいってすわりました。
   十二人の男たちは、欲張り男に順番にたずねました。
  「あんたは、一月をどう思うかね?」
  「ああ、寒くて大嫌いだ」
  「二月は、どうかね?」
  「あんな月はごめんだね。吹雪(ふぶき)ばかりさ」
  「三月は?」
  「春だというのに、小雪が降っていやな月だ」
  「四月はどう思う?」
  「雨ばかりの、ゆううつな月だね」
  「五月は、どうだ?」
  「天気の悪い日が多くて、こまるね」
  「じゃ、六月は?」
  「あついのは、嫌いだ」
  「七月は?」
  「カミナリの季節は、なくなればいいね」
  「八月は、どうか?」
  「暑いくせに、いきなり冷たい風が吹いたりするからな」
  「九月は、どうかね?」
  「作物をだめにする、困った月だ」
  「十月は、どんなふうか?」
  「ブドウ畑でたき火をする、めんどうな月だね」
  「十一月は?」
  「寒いし、雨降りが多くてね」
  「なら、十二月はどうかな?」
  「寒くて寒くて、こごえそうだよ。一番嫌いな月だ」
   十二人の男たちは、棒を渡して言いました。
  「『棒よ、動け』と命じるがよい」
   欲張り男は棒をひったくるようにして、一軒家を飛び出して家に走って帰りました。
   そしておかみさんをよんでテーブルに棒をおくと、大声で言いました。
  「棒よ、動け!」
   すると棒はカタカタと動き出して、ピョーンととびはねたかと思うと、欲張り男とおかみさんをポカポカなぐり続けたのです。
おしまい