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        福娘童話集 >節句特集 > 人食い婆と、おつなの頭 
         
      せっくのお話し 第 3 話 
       
        
       
人食い婆と、おつなの頭 
      
      
       むかしむかし、あるところに、おつなという女と、その婿(むこ)が住んでいました。 
 ある日、婿は仕事で遠くへ行く事になりました。 
「なるべく早く戻って来るから、しっかり留守を頼んだぞ」 
 婿が出かけたあと、おつなは一人でなわを編んでいました。 
 するとそこへ見知らぬおばあさんがやって来て、おつなの編んでいるなわをいろりにくべたのです。 
「なっ、何をするんだよ!」 
 おつなが止めても、おばあさんは知らん顔です。 
 そのうちに燃えてしまったなわの灰を、おばあさんはムシャムシャと食べ始めたではありませんか。 
「・・・!」 
 おつなはびっくりして逃げ出そうとしましたが、体が震えて立ち上がる事も出来ません。 
「ヒッヒヒヒ、そんなら、明日の今頃、また来るでな」 
 おばあさんは灰だらけの口でニヤリと笑い、外へ出て行きました。 
 
 次の日、おつなは怖くて仕事も手につきません。 
 おばあさんが来る頃になるとカヤの実を三粒持って、二階のつづら(→衣服などを入れるかご)の中へ隠れました。 
 やがて、おばあさんがやって来ました。 
「おや、いないのか?」 
 しばらくいろりのまわりを歩いていたおばあさんは、階段をのぼり始めました。 
 おつなは、おばあさんを驚かそうとして、 
 カチン! 
と、カヤの実をかみました。 
 おばあさんは、その音にハッとして足を止めます。 
「はて、何の音かな?」 
 それでもおばあさんは、階段をのぼってきます。 
 おつなはもう一度、カヤの実を口に入れて、 
 カチン! 
と、かみました。 
「なんだか、いやな音だね」 
 でも言うだけで、足を止めようともしません。 
 足音が、どんどん近づいてきます。 
 おつなは怖くて怖くて、息がつまりそうです。 
(お願い! あっちへ行って!) 
 おつなは思い切って最後のカヤの実をかんで鳴らしましたが、もう、おばあさんはびくともしません。 
「ふふふ、におうぞ、におうぞ」 
 おばあさんは二階に来て、そこら中をかぎまわりました。 
(ああ、もうだめ!) 
 おつながつづらの中で手を合わせた時、がばっと、ふたが開いたのです。 
「おおっ、いた、いた。今日は、お前を食いに来たよ」 
 おばあさんはおつなを引きずり出すと、足からムシャムシャ食べ始めて、あっという間に体のほとんどを食べてしまいました。 
 でも不思議な事に、おつなは死なずにまだ生きていました。 
「ああ、うまかった。残りは、明日にとっておこう」 
 おばあさんは頭だけになったおつなを戸棚の中へしまうと、ゆっくり家を出て行きました。 
 
 次の日の朝、そんな事とは夢にも知らない婿が家に戻って来ました。 
「おつな、今帰ったぞ。・・・おい、おつな!」 
 いくら呼んでも、返事がありません。 
「おかしいな」 
 家中を探しても、やっぱりいません。 
「それにしても、腹がへった」 
 そう思って、なにげなく戸棚を開けてみると、なんとおつなの頭が棚にのっていて、うらめしそうにジッとにらんでいるのです。 
「うえっ!」 
 びっくりした婿が転がる様に逃げ出すと、おつなの頭がコロコロと転がって来て、婿の胸にかぶりつきました。 
 婿は仕方なく、おつなの頭をかかえたまま外へ飛び出しました。 
 すると、おつなの頭が言ったのです。 
「お前さん、わたしをおいて逃げるつもりかい?」 
「と、とんでもない! お前は、おらの可愛い女房だ!」 
「そんなら、わたしにご飯を食べさせておくれよ」 
 婿は仕方なく人に見えない様におつなの頭を抱いて宿屋へ行き、二階に部屋を取って料理を運んでもらいました。 
 おぜんの前に座ったとたん、おつなの頭がおぜんの上に飛び降りて、 
「さあ、食べさせておくれ」 
と、口を開いたのです。 
 いくら可愛い女房でも、気味が悪くてがまん出来ません。 
「かんべんしてくれ!」 
 婿は、いきなりおつなの頭におはちをかぶせて上から帯をまきつけると、そのまま階段をかけ降りて、いっきに外へ飛び出しました。 
「お客さん、何事ですか?」 
 おどろいた宿屋の人が追いかけようとしたら、二階からおはちをかぶせられた女の頭が転がってきます。 
「お、お化け!」 
 そう言ったきり、宿屋の人は気を失いました。 
 
 おつなの頭は宿屋から転がり出て、婿を追いかけました。 
「た、た、助けてくれー!」 
 婿はさけびながら、必死に走り続けます。 
 どこをどう走っているのか、まったくわかりません。 
「お前さーん! お前さーん!」 
 おつなの声が、すぐ後ろから追ってきます。 
「もうだめだ!」 
 はっと気がつくと、目の前に菖蒲(しょうぶ)とヨモギのはえた草むらがありました。 
 婿は夢中で、その草の中へ倒れ込みました。 
 すると、どうでしょう。 
 草むらの前まで追って来ておつなの頭が、くやしそうに、 
「くそっ! 菖蒲やヨモギさえなかったら」 
と、言って、もと来た方へ転がって行ったのです。 
「やれやれ、助かった。それにしても、菖蒲やヨモギが魔除けになるのは本当だったんだな」 
 婿は、ほっとして立ちあがりました。 
 そして菖蒲とヨモギをたくさん取って帰り、家の窓や戸口にさしておく事にしたのです。 
 おかげで人食い婆も、おつなの頭も、二度と家へはやって来ませんでした。 
 
 今でも五月五日に菖蒲やヨモギを軒下にさすのは、人食い鬼や魔物を追い払う為だそうです。 
         
         
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