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福娘童話集 >節句特集 > 一日遅れのショウブ売り 島根県の民話
せっくのお話し 第 4 話
一日遅れのショウブ売り
島根県の民話 → 島根県情報
むかしむかし、ある村に、とても美しい娘がいました。
一人娘だった為、娘が年頃になると、隣村から婿さんをむかえました。
二人は村でも評判の、大変仲の良い夫婦となりました。
ところが婿さんは美しい嫁さんのそばに少しでも長くいたいので、なかなか畑仕事に行きません。
そこで町の絵師(えし→絵描き)に嫁さんの絵姿(えすがた)をかいてもらい、仕事をする時はそれを竹ざおにつけて、畑に立てておく事にしたのです。
そんなある時、大風が吹いて来て、嫁さんの絵姿が飛ばされてしまいました。
絵姿は空にのぼって、見えなくなってしまいました。
さて、この絵姿が落ちたのは、遠い京の都の殿さまの屋敷の庭先でした。
「なんと! この世にこれほど美しい女がおるとは。お前たち、この絵の女がどこにおるか探してまいれ」
殿さまはそう言って、絵姿の美女を探し出すよう命じました。
そして絵姿の美女を見つけると、殿さまはすぐに京の屋敷に連れてこさせました。
こうして婿さんは、むりやり嫁さんと別れさせられてしまったのです。
婿さんは、来る日も来る日も嫁さんの事を思い続けていました。
「ああ、もう一度だけ嫁さんに会いたい。嫁さんに会いたい。しかし、殿さまの屋敷の中じゃあ・・・」
と、苦しんでいると、都から来た商人が言いました。
「五月五日の端午(たんご)の節句(せっく)の日だけは、菖蒲(しょうぶ)売りが殿さまの屋敷の中に入れるそうだ」
それを聞いた婿さんは喜んで、菖蒲を背負うと都へのぼって行きました。
けれども五月五日には間に合わず、翌日の五月六日にやっと都につきました。
一日遅れでは、もう殿さまの屋敷へ出入りする事は出来ません。
婿さんはガッカリしながら、大きな屋敷のまわりを、
「ショウブー! ショウブー!」
と、大声をあげながら、歩いていました。
「はて? 節句は昨日のはず。六日のショウブ売りとは珍しい」
屋敷の人は一日遅れのショウブ売りを笑っていましたが、その声を聞いた嫁さんは屋敷の庭を走ると、塀(へい)の外にいる婿さんに声をかけました。
「あ、あんた。来てくれたんだね」
「おおっ、お前、お前か」
「そう、あたしだよ。今は人目があるから、夜中に迎えに来て」
「よし、わかった」
その夜、嫁さんは婿さんと手に手を取って、ふるさとへ逃げて行きました。
苦しい旅でしたが、二人は山をいくつもこえて、やっと村が見える峠(とうげ)まで逃げて来ました。
「ほれ、寺の赤い屋根が見える。もう少しだ!」
婿さんは嫁さんをはげましましたが、嫁さんはその一言を聞いて、張り詰めていた気持ちがいっぺんにゆるんでしまったのでしょう。
その場へ崩れる様に倒れると、そのまま息をひきとってしまいました。
亡くなった嫁さんのふるさとでは、その後、毎年五月六日に紫色のショウブの花を家にかざって、気の毒な嫁さんの霊(れい)をなぐさめる様になったという事です。
※ よく似た話しに、絵姿嫁さんがあります。
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