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8月7日の世界の昔話
  
  
  
  アナンシと五
  ジャマイカの昔話 → ジャマイカの国情報
 むかしむかし、ジャマイカ島に、アナンシという男がいました。
 アナンシは、ときどき人間になったり、ときどき大きなクモになったりするのですが、とにかくわるいやつです。
 アナンシの近くに、五という名まえの魔女(まじょ)が住んでいました。
 五は自分の名まえが大きらいで、もっといい名まえでよんでもらいたいと思っていました。
 でも、みんなはやっぱり五とよぶので、五はいつも腹をたてていました。
 ある朝、アナンシは魔女の家のへいの穴から、そっと中をのぞいてみました。
 魔女は大ナベで、魔法の草をにているところでした。
 ナベから煙(けむり)がたちはじめると、魔女は魔法のつえをふりあげて、おそろしい呪文(じゅもん)をとなえました。
  「五ということばをいったものは、その場で死んでしまえ」
 それを聞いてアナンシは、ニヤリと笑いました。
  「いいことを聞いた。こいつをうまくつかえば、ごちそうにありつけるぞ」
 あくる朝、アナンシは小川にそった道へやってきました。
 市場にいくものが、かならず通る道です。
 アナンシは、サツマイモの山を五つ、道ばたにつくって、だれかが通るのをまっていました。
 そこへ、アヒルのおくさんが通りかかりました。
  「おはよう、色白で美しいアヒルのおくさん。ごきげんいかがですかね」
  と、アナンシは声をかけました。
  「ありがとうアナンシさん。おかげさまで。あなたはごきげんいかが?」
  「ええ、それがねえ」
  と、アナンシは、さも悲しそうな顔をして見せました。
  「ごらんのとおり、サツマイモをつくったんですがね。頭がわるいものですから、いく山とれたかかぞえられないんですよ。すみません、かぞえてみてくれませんか?」
  「いいですとも」
 アヒルのおくさんは、サツマイモの山をかぞえはじめました。
  「一、二、三、四、五」
 アヒルのおくさんは五といったとたん、魔女ののろいにかかって、バッタリたおれて死んでしまいました。
 アナンシは、アヒルのおくさんをまるごとペロリと、たべてしまいました。
 そしてまた、道ばたにすわってだれかが通るのをまっていました。
 そこへウサギのおくさんが、ながい耳をパタパタさせながら通りかかりました。
  「おはよう、長い耳がすてきなウサギのおくさん。ごきげんいかがですか」
  「ありがとう、アナンシさん」
  「ねえ、しんせつなウサギのおくさん。サツマイモをつくったんですけどね。頭がわるくて、いく山とれたかかぞえられないんですよ。ひとつ、かぞえてくれませんか?」
  「ええ、いいですとも」
 ウサギのおくさんは、かぞえはじめました。
  「一、二、三、四、五」
 五といったとたん、ウサギのおくさんはバッタリたおれて死んでしまいました。
 アナンシは、ウサギのおくさんをペロリとたいらげてしまいました。
 アナンシは、ふくれたおなかをさすりながら、まだそこにいました。
 しばらくすると、こんどはハトのおくさんが、きれいなピンクの足で歩きながらやってきました。
  「おはよう、ピンクのきれいな足のハトのおくさん」
  と、アナンシは声をかけました。
  「おはよう、アナンシさん。ごきげんいかが?」
  と、ハトのおくさんは、聞きました。
  「それがねえ、ハトのおくさん」
  と、アナンシは、悲しそうな声をだしました。
  「わたしはバカなもんで、サツマイモをつくったのに、いく山とれたのか、かぞえられないんですよ。ねえ、おやさしいハトのおくさん。わたしのかわりにかぞえてくれませんか」
  「ええ、いいですとも」
 そういうと、やさしいハトのおくさんは、かわいいピンクの足でサツマイモの山にとびのりました。
 そして、山から山へととびうつりながら、かぞえはじめました。
  「一、二、三、四、それから、わたしの乗っているぶん」
 アナンシは、くやしがりました。
  「ハトのおくさん、あんたのかぞえかたはおかしいですよ」
  「まあ、ごめんなさい、アナンシさん。それじゃ、もう一回かぞえてあげるわ」
 ハトのおくさんは、またかぞえました。
  「一、二、三、四、それから、わたしの乗っているぶん」
  「ちがう、そんなかぞえかたじゃ、だめだ」
 アナンシは、歯をギリギリいわせておこりました。
  「ほんとうに、ごめんなさい。アナンシさん。もう一回やってみますわ」
 やさしいハトのおくさんは、またかぞえなおしました。
  「一、二、三、四、それから、わたしのすわっているぶん」
 アナンシは、まっかになっておこりました。
 そして、思わずさけびました。
  「なんてバカなハトだ! いいか、こうやってかぞえるんだ。一、二、三、四、五」
『五』といったとたん、アナンシはバッタリたおれて死んでしまいました。
おしまい