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2008年 4月9日の新作昔話
ウマのふん
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
きっちょむさんは、この頃、妙な事をはじめました。
毎朝、ざるにウマのふんを入れて、川にさらして洗っているのです。
洗い流すと、ざるの中にいくらかのお金が入っています。
「やれ、けさも、もうかったわい」
きっちょむさんは、ざるにお金を入れたまま、見せびらかすように帰っていきました。
近所の人が、きっちょむさんに聞きました。
「きっちょむさん。そのお金、まさかウマのふんから出たのではないだろうな」
「はい、たしかにふんから出たものじゃ」
「するとお前さんのウマは、お金のふんをするのかね」
「そうだが、それが何か?」
さあ、それを聞いた野津(のつ)の人たちは、みんなきっちょむさんのウマがほしくなりました。
「きっちょむさん。そのウマを売ってはくれんか?」
「いや、売らんぞ。このまま持っていれば、金持ちになれるもんな」
売らないといえば、よけいにほしくなるものです。
「五十両出すから、売ってくれ」
「いや、おれは七十両だ」
「わしなら、百両出すぞ」
でも、きっちょむさんは、
「そんな金、毎日ふんを洗っていりゃあ、すぐたまるわい」
と、ウマを売ろうとはしないのです。
そしてとうとう、うわさを聞いた町一番のウマ買いがやってきました。
するときっちょむさんは、
「仕方ねえな、野津の人にゃ売らんが、わざわざ町から来たんじゃ、ことわれねえ。ただし、毎日上等なえさをやってくれよ」
と、とうとうウマを手ばなしました。
ウマ買いは大金を置いて、喜んでウマをひいていきました。
ところが、ウマ買いは毎日特別上等なえさをやって、大事大事にしているのですが、ウマはお金のふんを出さないのです。
最初の二、三日は、数枚のお金が出てきたのですが、それからはまるでだめです。
「だましたな、きっちょむめ!」
怒ったウマ買いは、野津までやってきて、
「やい、きっちょむ。あのウマは金を出さんぞ!」
と、怒鳴り込みました。
するときっちょむさんは、
「そんな事はない。えさが悪いんじゃないのか?」
「何をいうか。ムギやらニンジンやら、毎日上等なえさをやって、大事にしているんだ!」
「ムギやニンジンねえ。まあ、たしかにそれも上等なえさだが。・・・で、そのえさには、お金は入っているかい?」
「金?」
「そうさ、どんなにいいえさでも、お金入りのえさほど上等じゃねえ。この世で一番上等なえさは、お金入りのえさだ。それさえやれば、ウマはお金の入ったふんをするよ」
おしまい
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