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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > ろくろ首を退治した坊さん 
      2008年 8月22日の新作昔話 
          
          
         
  ろくろ首を退治した坊さん 
  山梨県の民話 → 山梨県情報 
      
       むかしむかし、回竜(かいりゅう)という旅のお坊さんがいました。 
         たまたま甲斐の国(かいのくに→山梨県)へ来たとき、山道の途中で日がくれてしまいました。 
        「仕方がない。今夜はここで野宿するか」 
         回竜は元は名のある侍で、怖い物知らずです。 
         ゴロリと道ばたの草の上に寝ころぶと、そのまますぐにいびきをかきはじめました。 
         さて、どのくらいねむったでしょう。 
        「もしもし。もしもし」 
        と、呼ぶ声に目をさますと、一人の木こりが立っていました。 
        「お坊さま、こんなところで寝ていてはいけませんよ。この山には人を食う恐ろしい化け物がいて、何人もの旅人がおそわれました。よかったら、わたしたちの小屋へ来ませんか?」 
        「それはそれは、ご親切に」 
         回竜が木こりの後をついていくと、山の中に一軒のそまつな家がたっていました。 
         家の中には案内してくれた男のほかに、三人の男と一人の女がいました。 
         貧しい身なりをしているのに、どこか礼儀正しくて、とても木こりとは思えません。 
         そこで回竜は、思いきってたずねてみました。 
        「みなさんは、もしかして都の人ではありませんか?」 
         すると、一番年上の男が言いました。 
        「はい。おっしゃる通り、もとは都の侍でした。お恥ずかしいことですが、わけあって人を殺してしまい、家来とともにこうして山の中にくらしながら、自分のおかした罪を反省しているしだいです」 
        「それは、よくぞ話してくれました。そういうお心なら亡くなった方も、きっとあなたたちを許してくださるでしょう。わたしもお経をあげて、亡くなった方のめいふくを祈りましょう」 
         そう言って回竜は夕食をいただいたあと、夜おそくまでお経をよんでいました。 
         もうすっかり夜もふけて、となりの部屋からは物音ひとつ聞こえてきません。 
        「さて、そろそろわたしもねむるとするか」 
         回竜は立ちあがって、戸の破れからなにげなくとなりの部屋をのぞきました。 
        「うん? ・・・これは!」 
         回竜は、思わず息を飲み込みました。 
         なんと布団の中には、首のない体が五つならんでいるではありませんか。 
        「さては、人食いお化けにやられたか。お気の毒に」 
         回竜は恐ろしさも忘れて、部屋に飛び込みました。 
         ところがどこにも血のあとがなく、どの体も動かされた様子がありません。 
        「おかしいぞ?」 
         しばらく考えこんでいた回竜は、ふと、ろくろ首の話を思い出しました。 
         首の伸びるろくろ首は、体から首を離して遠くへ散歩にいくといいます。 
        「さては、あの五人がろくろ首であったか。よし、もう二度と首がもどれないように、こいつらの体をかくしてやろう」 
         回竜は床板をはがすと首のない体を次々と下へ投げこみ、もとのように床板をはめて外へ出ました。 
         外には生暖かい風がふいていて、その風にのって人の話し声が聞こえてきます。 
         回竜がその話し声の方に近づいていくと、五つの首が、あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら、飛びまわりながら話していました。 
        「あの坊主め、よく太っていて、なかなかうまそうじゃ」 
         回竜を案内してきた、木こりのろくろ首が言いました。 
        「しかし、いつまでもお経を読まれては、近よることもできん。だが、もうだいぶ夜もふけた。今ごろは、すっかり眠り込んでいるはずだ。だれか様子を見てこい」 
         一番年上のろくろ首が、言いました。 
         すると女のろくろ首が、フワフワと飛んでいったかと思うと、すぐにもどってきました。 
        「大変です! 坊主の姿が見えません! それに、わたしたちの体がどこにも見あたらないのです!」 
        「なんだと!」 
         一番年上のろくろ首は、みるみる恐ろしい顔になりました。 
         髪の毛をさかだてて、歯をむきながら目をつりあげる姿は、さすがの回竜もぞっとするほどです。 
        「体がなくては死んでしまうぞ。こうなったら、なんとしても坊主を探し出し、八つ裂きにしてくれるわ!」 
         五つのろくろ首は、ものすごい顔で火の玉のようにとびかい、回竜を探しはじめました。 
         回竜は、じっと木の後ろにかくれていましたが、ついに五つのろくろ首は回竜の姿を見つけ出しました。 
        「よくも、わしらの正体を見破ったな!」 
         五つのろくろ首は、一度に回竜めがけて飛びかかってきます。 
         しかし回竜は、近くの木をすごい力で引き抜くと、 
「ふん! 昔取った杵柄(きねづか)! きさまら何ぞに負けんぞ!」 
と、いきなり、一番年上のろくろ首をたたきおとしました。 
        「ぎゃーーーっ!」 
         ろくろ首は、さけび声をあげて頭から血を流しました。 
        「さあ、かかってこい!」 
         回竜は木をブンブンとふりまわして、ろくろ首を次つぎとたたきのめしていきました。 
         回竜にやっつけられた五つのろくろ首は、ふらふら飛びながら暗闇の中に消えていきました。 
         回竜が山の家にもどってみると、血だらけになった五つのろくろ首が、白い目をむいて転がっています。 
        「さても、恐ろしいめにあったものだ。しかしろくろ首とはいえ、もとは人間のはず、成仏せいよ」 
       回竜は五つのろくろ首に手をあわせると、夜明けの山道をゆっくりとくだっていきました。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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