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8月22日の日本の昔話
卵のような顔
むかしむかし、ある村はずれに、景色のよい浜辺がありました。
「おおっ、なんて素晴らしい眺めだ」
たまたまそこを通りかかった男が、ふと前を見ると、若い女が一人で松の木に寄りかかって海を見ていました。
顔はよく分かりませんが、その後ろ姿は美くしく、男はひとこと声をかけたくなりました。
(さて、何て言おうか。それとも、ちょっとおどかしてやるか)
男はこっそり女の後ろへ近づき、ポンポンと肩を叩きました。
女はおどろいて振り向きましたが、本当におどろいたのは男の方です。
「ギャァァァー!」
と、叫んだまま尻もちをつきました。
なんと、女の顔には目も鼻も口もなく、まるで卵のように、ツルンとしていたからです。
「あわわわわわっ」
男はガタガタとふるえながら、はうようにして女のそばを離れると、後も見ないでかけだしました。
走って走って村の中ほどまで来ると、道に人力車(じんりきしゃ)がとまっています。
「どこ、どこ、・・・どこでもいいから、早く走ってくれ!」
男は叫ぶなり、人力車に飛び乗りました。
すると人力車のそばにしゃがみこんでいだ車引きが、のっそりと立ちあがり。
「だんな、何だって、そんなにあわてているんです?」
「これがあわてずにいられるもんか! 実はな、あそこの浜辺で、恐ろしい女にあったんだ!」
「恐ろしい女? そりゃまた、どんな女で?」
「そっ、それはだな。つまりその、なんだ」
男がもどかしそうに説明していると、車引きが自分の顔をツルリとなでて、
「もしかして、こんな顔と違いますか?」
車引きの顔から、たちまち目も鼻も口もなくなり、卵のようになりました。
「ギャァァァー!」
男は人力車から飛び降りると、メチャクチャにかけだしました。
もう、どこをどう走っているのかわかりません。
あまりにも走りすぎたため、苦しくて苦しくて、いまにも心臓が破れそうです。
ふと前を見ると、野原の中に一軒家(いっけんや)がありました。
男は、その家の庭に飛び込むと、バッタリと倒れました。
「水、水、・・・水をくれ」
すると、おかみさんらしい女の人が出てきて、男を助け起こして、水を飲ませてくれました。
「そんなにあわてて、どうしたのです?」
「目も、鼻も、口も・・・」
いいかけましたが、息がきれて、うまくしゃべれません。
すると、女がニヤッと笑い、
「それは、こんな顔とちがいますか?」
と、言いました。
男がハッとして女の顔を見たら、目も鼻も口もなく、卵のようにツルンとしています。
「ギャァァァー!」
さけんだきり、男は気を失ってしまいました。
しばらくして目を覚ますと、男は野原のまん中で、裸のまま倒れていたそうです。
おしまい
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