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2008年 9月4日の新作昔話
島の合戦
石川県の民話 → 石川県情報
むかしむかし、加賀の国(かがのくに→石川県)に、つりの大好きな七人の男がいました。
ある日の事です。
「こんな日には遠出をして、たくさんのさかなをつってこようじゃないか」
「そうじゃ。思いきって遠出をしよう」
「そうだな。だが、まさかのときの用意に、弓矢を持っていこう」
と、さっそく話が決まりました。
そこで七人の男たちは、弓と矢、それに刀なども船に積み込みました。
そして沖へ向かって、ぐいっぐいっと、船をこぎ出していきました。
「さて、この辺りでよかろう」
と、男たちがつり針にえさをつけようとしていると、突然、嵐のような大風が吹いてきて、船はぐんぐんと沖へ流されていきました。
「大変だ、はやく船をこぐんだ!」
七人の男たちは夢中で船をこぎましたが、船は流される一方です。
それから、どれくらい流されたでしょう。
ずーっと向こうの海の上に、黒い物が現れました。
「おい、島だ。島が見えたぞ」
「おお、かなり大きな島だ。これで命も助かったぞ」
と、喜んだその時、船はまるで島に引き寄せられるように、ぐんぐんと進んでいくではありませんか。
そうして船は、あっという間に島に着いたのです。
さっそく島にあがってみると、たくさんの木がしげっていて、どの木にもおいしそうな実がなっています。
「やれやれ。食う物には心配ないぞ」
七人の男たちは、ほっとしました。
するとそこへ一人の美しい若者が、林の中から現れました。
若者は七人の男たちに、ていねいに頭を下げて、
「ようこそ、おいで下さいました。実はわけがあって、わたくしがあなた方をこの島へ引き寄せたのです」
と、言いました。
「船を引き寄せるとは、どういう事だ?」
「この若者、ただの人間ではないらしい」
と、男たちが相談していると、
「さて、みなさま、お疲れでございましょう。なによりもまずは、お食事を」
と、若者が、林の奥に手まねきをしました。
すると、
「わっさ、わっさ」
と、かけ声がして、大きな長持(ながもち)をかついだ人足(にんそく)たちが現れました。
長持の中は酒やさかなや果物など、おいしい物がいっぱい入っています。
腹ぺこだった男たちは、喜んでそれらを食べました。
さて食事がすむと、美しい若者がいいます。
「あなた方に、お願いがございます。実は沖の方に、もう一つの島がありまして、そこの主が毎年、戦いをいどんでまいります。この島を奪おうというのです。明日はちょうど、その主が攻めてくる日です。わたくしたちには、生死を決する日です。それでぜひ、みなさんにお力ぞえをいただきたく、お迎えいたしました」
それを聞いて、七人の男たちはびっくりしました。
自分たちを迎えたとは、おかしな言い方ですが、とにかくこの若者は七人にとっては命の恩人です。
その恩人の頼みを、断る事は出来ません。
「わかりました。たったの七人ではありますが、わたしたちは、みな気のあう者ばかり。必ずや、お力になりましょう」
「さいわい、弓矢、刀などもございますから」
と、いうと、若者は大変喜びました。
そして、男たちがたずねました。
「して、向こうの島からは、どれほどの軍勢が、何そうぐらいの船で攻めてくるのですか?」
「いや。敵は人間ではありません。それにこのわたくしたちも、人間ではないのです」
「・・・?」
「まあ、それは、すぐにおわかりになるでしょう。ところで、今までの戦いは波うちぎわでたたかい、やつを撃退しておりました。けれど今度は、あなた方がいてくださるので、敵を岸の上におびきよせます。やつは岸にあがると力が出るので、喜んであがってくるでしょう。やつとの対決は、わたくしにおまかせください。力のかぎり戦います。ですが、どうにもこらえきれぬようになりましたら、あなた方に目くばせをいたしますから、その時、あなた方は相手の頭をねらって、お持ちの矢を残らず撃ち放って下さい」
いい終わると若者は、林の奥の方へ姿を消しました。
七人の男たちは山の木を切って、大きな岩のかげに小屋をつくりました。
そして矢じりをといだり、弓のつるをはったりしました。
一晩中火をたいて、あれやこれやと話をしているうちに、夜があけました。
男たちは腹ごしらえをすると、戦いの準備をととのえました。
そして岩の上から、敵が来るのを待ちました。
やがて沖の空がくもって、波がざわめきはじめました。
そして、なまぐさい風が吹いてくると、海の上にギラギラッと燃える、二つの火の玉が現れたのです。
そのとき後ろの山の方からも、なまぬるい風が吹いてきました。
そして不気味なうなり声と一緒に、らんらんと光る赤い二つの火の玉が林の上に現れました。
敵は荒れくるう波をかきわけて、ぐんぐんと島へ近づいてきます。
よく見ると、海から来る敵は、クジラよりも大きな大ムカデです。
一方、山の主は大蛇です。
とても大きな大蛇ですが、ムカデの半分ほどしかありません。
陸に上がった大ムカデは、波うちぎわで、ぶるぶると身ぶるいして体の水をはねのけると、けむりのような息をはきながらやってきます。
一方の大蛇は、かま首を持ちあげてムカデを威嚇(いかく)します。
二匹の化け物は、しばらくにらみあっていましたが、やがて砂けむりをあげて飛びつくと、たがいに相手に食らいつきました。
木を押し倒し、岩をくだき、どちらの体も血だらけです。
最初は互角の勝負でしたが、やがて体の小さな大蛇は大ムカデにやられる一方になりました。
その時、大蛇が岩の上の男たちに、目くばせをしました。
「よし、合図があったぞ。それっ!」
七人の男は弓を引きしぼって、大ムカデの頭に目がけて矢を放ちました。
ビューン
ビューン
ビューン
ビューン
矢は、次から次へと休む間もなく放たれました。
そして何百という矢が、大ムカデの頭に突き刺さったのです。
矢がなくなると、男たちは岩の上から飛びおりて、刀をふりかざしました。
「それっ! 相手はだいぶ弱ったぞ! 逃げられぬように足を切り落としてしまえ!」
男たちは大ムカデの足を、次から次へと切り落としていきました。
全ての足がなくなった大ムカデは、バランスを崩して仰向けにひっくり返りました。
男たちは柔らかい大ムカデの腹をめった切りに切りつけて、とうとう大ムカデをやっつけたのです。
大ムカデが死んだのを見とどけると、大蛇はきずついた体を引きずりながら、林の奥に消えていきました。
やがて林の奥から、あの若者が姿を現すと、目に涙をうかべていいました。
「あなた方のおかげで、この島の者は平和に暮らす事が出来ます。ありがとうございました」
そして林の奥を手まねきすると、大勢の人足たちがやってきて、七人の船の中に、食べ物や 珍しい果物をたくさん入れてくれました。
「さあ、みなさん。どうぞ船にお乗りください。わたくしが、お送りいたしましょう」
七人の男たちが船に乗り込むと、若者は手を高くあげました。
すると島からにわかに風が吹いてきて、男たちはあっという間に加賀の国へ帰りついたという事です。
おしまい
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