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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 泉小太郎(いずみこたろう) 
      2008年 11月11日の新作昔話 
          
          
         
  泉小太郎(いずみこたろう) 
  長野県の民話 → 長野県情報 
       むかしむかし、松本平(まつもとだいら)の放光寺(ほうこうじ)という里に、洞(ほら)じいと呼ばれる老人がいました。 
         ある日のこと、釣りに出かけた洞じいは、湖のほとりで赤ん坊を見つけました。 
        「おうおう、こんなところになぜ赤ん坊が」 
         そっと抱き上げると、突然、湖の中から竜が姿を現わして、 
        「その子の名は、泉小太郎(いずみこたろう)です。私はわけあって竜の姿をしておりますが、小太郎が十二才になったら犀乗沢(さいのりざわ)の淵まで迎えに参ります。どうかそれまで小太郎を育てて下さい」 
        と、言うと、再び水の中に沈んでしまいました。 
         それ以来、洞じいは小太郎を大事に育てました。 
         小太郎はすくすくと成長して、やがて十二の春を迎えたある晩のこと、洞じいは小太郎を呼んで話しを始めました。 
         小太郎の母が竜であること、犀乗沢で小太郎を待っていること。 
         小太郎は考えた末、洞じいに別れを告げて犀乗沢へと出かけて行きました。 
         やがて淵にたどり着いた小太郎は、 
        「おっかさん、おっかさん」 
        と、水面に向かって何度も母を呼びました。 
         すると静かな湖面から、竜が姿をあらわしたのです。 
         竜は小太郎を見ると、涙をこぼしました。 
        「小太郎、よく来てくれました。私は諏訪大明神(すわだいみょうじん)の化身、この湖を切り開いて土地を作るためにつかわされたのです。お前を人の世で育てさせたのもそのため、どうか私に力を貸しておくれ」 
         小太郎は母竜の話を聞き終わると、大きくうなづきながら、 
        「おっかさん、よくわかった。おら、手伝うよ」 
        と、承知して、さっそく母竜の背中にまたがりました。 
         やがて母竜は小太郎を乗せると、ゆっくりと湖の中を泳ぎ回ります。 
         そして、ひとつの岩に見当をつけると、勢いよく体ごとぶつかっていったのです。 
         母竜は何度も何度も岩に体当たりして、その度に裂けた傷口から血が吹き出しました。 
         小太郎は母の背から、 
        「岩が動いた。もうひと息だ」 
        と、懸命に母竜をはげまします。 
         その言葉に力を得たかのように、母竜は最後の力をふりしぼって、 
         ドーーン! 
        と、岩に体をぶち当てました。 
         すると、あたりをゆるがすような音と共に岩が地響きをたてて崩れ落ちて、湖の水が一気に流れ出ました。 
         こうしてあとには、広い広い土地が現れたのです。 
         けれども小太郎と母竜はどこへ行ってしまったのか、その姿はどこにもなかったそうです。 
       大町市仏崎の観音寺には、この小太郎と母竜の霊がまつられているそうです。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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