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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 酒つぼのヘビ
2008年 11月30日の新作昔話
酒つぼのヘビ
大阪府の民話 → 大阪府情報
むかしむかし、比叡山(ひえいざん)で修行していた、一人の坊さんがいました。
しかし、いくら修行を続けても、大して偉くはなれないと見切りを付けると、生まれ故郷の摂津の国(せっつのくに→大阪府)に帰ってきました。
そして坊さんはお嫁さんをもらって、幸せに暮らしていました。
この村では、毎年正月の修正会(しゅしょうえ→寺院で、正月元日から3日間あるいは7日間、国家の繁栄を祈る法会)には、必ずこの坊さんをたのんで、おがんでもらうことにしていました。
さて、ある年の修正会のとき、この坊さんは仏さまにおそなえしたもちをたくさんもらいました。
しかし坊さんとお嫁さんは、とてもけちだったので、そのもちをだれにもわけてあげようとはしません。
自分の子どもたちにさえ、食べさせないのです。
二人は少しずつ、もちを食べていましたが、そのうちにもちは固くなってしまいました。
このままにしていたら、食べられなくなってしまいます。
そこでお嫁さんは、よいことを考えつきました。
(そうだわ。この固くなったもちで、お酒をつくろう。きっと、おいしいお酒が出来るにちがいないわ)
そこでさっそく、坊さんに話しました。
すると坊さんも、
「それは、なかなかの名案じゃ」
と、大賛成です。
そこで、そのたくさんのもちを酒つぼに入れて、酒をつくることにしました。
坊さんとお嫁さんは、それから酒の出来る日を、首を長くして待っていました。
やがて、月日がたちました。
「もうきっと、おいしいお酒が出来ているでしょう」
ある晩、お嫁さんはこっそりと酒つぼのふたを開けてみました。
すると、何かが動いているように見えました。
「何かしら?」
暗くてよく見えないので、お嫁さんはあかりをともして、つぼの中をてらしてみました。
「あっ!」
お嫁さんの顔は、とたんに、まっ青になりました。
つぼの中には、たくさんのヘビがかま首をあげながら、もつれあっているではありませんか。
「まあ、いったい、どうしたことでしょう」
お嫁さんはつぼのふたをすると、逃げるように坊さんのところにかけていきました。
でも、それを聞いた坊さんは、本気にしません。
「何を馬鹿な。そんなことがあるものか」
「でも、本当に見たのです」
「わかったわかった。なら、わしが見てきてやろう」
坊さんはお嫁さんからあかりをうけとると、酒つぼのところへいきました。
そしてふたをとると、つぼの中をのぞきこみました。
「わっ!」
坊さんもびっくりして、お嫁さんのところにかえってきました。
「これはいかん。つぼごと、どこか遠くへ持っていって捨ててしまおう」
こうして二人は、酒つぼをかつぎ上げると、広い原っぱのまん中に捨ててしまいました。
ところが、そのあくる日の夕方のことです。
広い原っぱの一本道を、三人の男が通りかかりました。
「おい、あれは何だろう?」
酒つぼを見つけた一人の男が、原っぱのまん中を指さしていいました。
「なんだろうな。行ってみよう」
三人は、恐る恐る酒つぼに近づきました。
そして一人の男が、つぼのふたをとって中をのぞきこみました。
「おい、酒だ、酒だ!」
「なに、本当か?」
二人の男も先を争うようにして、つぼをのぞきこみました。
「確かに酒だ。しかし一体、どうしたことじゃ?」
三人は思わず、顔を見あわせました。
すると一番はじめに酒つぼをのぞいた男が、ニヤリと笑うと言いました。
「この酒を飲もうと思うが、どうだね?」
二人の男は、恐ろしそうに言いました。
「野原のまん中に、こんな酒つぼが捨ててあるというのは、どうもおかしい。なにかきっと、わけがあるにちがいない。あぶないから、飲むのはよせ」
しかし、この男は大の酒好きですから、とてもがまんすることが出来ません。
「なあに、死んでもかまうものか。こうなったら、命もおしくはない」
男は腰につけた湯のみを取り出すと、酒をすくって、一気に飲み干しました。
「うん、うまい! これは、けっこうな酒だ」
そう言うと、もう一杯飲みました。
それを見ていた二人も酒好きですから、もう飲みたくてたまりません。
「仕方ない。わしらも付き合ってやるか」
三人は、次から次へと酒を飲み始めました。
そして、
「おい、こうなったら、何も急いで飲むことはない。家に持って帰って、ゆっくりと飲みなおそうではないか」
そういって三人は、その大きな酒つぼをかついで家に帰りました。
さて、それからまもなく、
「男が三人、野原に捨てた酒つぼを見つけたそうだ。そして、毎日のように飲んだが、とてもよいお酒だったそうだ」
と、いう話しが、村中につたわりました。
もちろん坊さんもお嫁さんも、この話を聞いたのです。
(あれはやっぱり、ヘビではなかったのだ。人にもやらず、自分たちの物にしてしまったので、仏さまのばつをうけて、わたしたちの目にだけヘビに見えたのだ)
そう思うと坊さんもお嫁さんも反省して、それからは、もらい物があると必ず人に分けてやるようになったのです。
おしまい
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