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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 命乞いに来たコイ
2008年 12月18日の新作昔話
命乞いに来たコイ
和歌山県の民話 → 和歌山県情報
むかしむかし、和歌山に大殿さまと呼ばれる、大変あばれ者の殿さまがいました。
背丈ほどもある長い刀を、先を切ったさやにさして歩きまわって畳を切り傷だらけにしたり、江戸の藩邸にいるときには、
「隣の松平邸の高殿で夕涼みしている女が、自分の屋敷を見て笑っている」
と、言って、鉄砲を撃ったりしたのです。
この事が幕府に知れて、大殿さまは隠居を命じられました。
あるとき、この大殿さまが、
「貴志川(きしがわ)の鯉の淵にすんでる大鯉はその淵の主で、村人はだれも手出しをしない」
と、いう話を聞いたのです。
そこでさっそく、そこの庄屋を呼び寄せて、
「その鯉を一口食ってみたいから、生け捕るように」
と、申しつけたのです。
びっくりした庄屋は、
「それだけはごかんべんを。淵の主を捕まえたりしたら、きっと恐ろしいたたりがあります」
と、断ったのですが、わがままな大殿さまは、
「嫌と申すか。もし生け捕りにできんのなら、かわりにお前の腹を切り開くとしよう」
と、言うのです。
そこで庄屋は仕方なく、生け捕りの準備をはじめました。
いよいよ明日は淵に網を入れるという晩、庄屋の家に美しい娘がやってきて、
「明日、淵に網を入れるそうですが、取りやめてはもらえませんか」
と、言いました。
それを聞いた庄屋が、
「もちろん、出来る事なら、わしも取りやめにしたい。でも、明日は大殿さまがここへやってくるので、いまさらやめるわけにはいかんのじゃ」
と、言うと、娘は、
「そうですか、それなら仕方ありません」
と、言って、出された草もちを食べて帰って行ったのです。
さて、翌日の朝。
大殿さまの前で淵に網を入れていると、大きな鯉がかかりました。
さっそく腹を切り開いたところ、中から草餅が出てきたのです。
これを見た庄屋はびっくりして、
「そうか、ゆうべ家へきたあの娘は、鯉の化身だったのか」
と、思い、みんなに昨日の話をしました。
それを聞いた大殿さまも、さすがに鯉があわれに思えて、
「それはすまぬことをした。鯉の料理を食うのはやめにしよう」
と、言って、その鯉を川岸に埋めて、その上に木を植えました。
それからその地は、『鯉の森』と呼ばれていたそうです。
おしまい
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