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12月18日の日本の昔話
イワナの坊さま
むかしむかし、山奥の谷川に、山で働く男たちが集まりました。
「今日は祭りだ。どくもみをして、川のごちそうをドッサリとるぞ」
男たちはサンショウの木の皮をはぎ取って細かくきざみ、なべでグツグツ煮つめた煮汁に石灰と木の灰をまぜてダンゴを作りました。
これで魚を取る、毒ダンゴの出来上がりです。
男たちの言っていた『どくもみ』とは、この毒ダンゴで魚を殺してつかまえる事です。
どくもみの準備が出来ると、男たちはお昼ご飯にしました。
今日は祭りの日にしか食べられない、アズキご飯です。
男たちがふと気がつくと、年を取ったお坊さんが立っていました。
「おや、坊さま。どうしてこんなところへ?」
するとお坊さんは、するどい目で男たちをにらんで言いました。
「お前たちは、どくもみをするらしいのう。
魚を釣るのは、いくらやってもかまわん。
釣りをいくらやっても、魚を取りつくす事はない。
だが、どくもみで毒ダンゴを投げ込めば、そこに住む魚たちは全めつだ。
だから決して、どくもみだけはするな」
それを聞いて、男たちは顔を見合わせました。
すると、力じまんのひげ男がお坊さんに言いました。
「しかし、今日は祭りだ。祭りの日は、魚を腹一杯食う事になっているんだ。釣りなんかじゃ、とても腹一杯になるほど魚は取れねえ」
するとお坊さんは、さとすように言いました。
「祭りの日に、魚を腹一杯食わなくても、死ぬことはない。
しかしどくもみをすれば魚たちは全めつして、根だやしになってしまうのじゃ。
みなごろしとは、もっとも罪深い事じゃぞ。
もし、自分の家族が根だやしになったらどうする?
頼むから、どくもみだけはやめてくだされ」
それを聞いて、ひげ男はペコリと頭を下げました。
「坊さま、お話はよくわかりました。
どくもみは、考えなおしますだ。
まあ、これでもめしあがってくだされ」
ひげ男はお坊さんに、アズキご飯を差し出しました。
お坊さんは安心すると、にっこりわらって、
「そうか、やめてくれるか。それはよかった。・・・では、ごちそうになろうかの」
と、アズキご飯をパクリパクリとのみ込むように食べて、どこかへ行ってしまいました。
「なんだか、しらけちまったな」
「どこの坊さまかは知らんが、ああ言われてはなあ」
「しかたない、せっかく用意したが、やめにするか」
男たちが言い合っていると、ひげ男が言いました。
「何を言う。ここでやめては、つまらんぞ」
「えっ? お前がやめると言い出したのだろう」
「あんなの、坊主を追い返すために言っただけだ。さあ、どくもみを始めるぞ」
「そうか、そうこなくっちゃ」
こうしてみんなは、谷に毒ダンゴを投げ入れました。
しばらくすると毒に弱った魚たちが次々と浮き上がってきて、おもしろいように取れました。
魚を取り終えた頃、最後に見たこともない大イワナが姿を現しました。
「これは、ここの主かもしれんぞ」
大イワナは毒で弱っているのにバシャバシャと大暴れして、つかまえるのに数人がかりで押さえ込みました。
さて、男たちはつかまえた魚を村へ持ち帰ると、待っていた女や子どもたちに魚をわけてやりました。
そして最後に、大イワナを切りわける事にしました。
ひげ男が大イワナのお腹に包丁を入れると、一気に切りさきました。
「ややっ・・・、こ、これは!」
なんと大イワナのお腹の中から、アズキご飯が出て来たのです。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
男たちの顔が、まっ青になりました。
「もしかして、このイワナはあの坊さまでは・・・」
「あっ! この大イワナ、死んでいるのにギロリと目玉を動かしたぞ」
こわくなった女や子どもたちが、家に逃げ帰りました。
「おら、いらねえ」
「おらも、えんりょするよ」
男たちも、コソコソと逃げ出しました。
するとひげ男が、逃げ出す男たちに言いました。
「なんだなんだ、だらしねえやつらだな。いらねえなら、おれがもらっていくぞ」
ひげ男は大イワナを家に持ち帰ると、一人で全部食べてしまいました。
さて、その日からしばらくして、ひげ男が突然死んでしまいました。
そしてその家族も次々と死んでしまい、とうとうひげ男の一家は根だやしになってしまったということです。
おしまい
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