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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 黄金のつぼ 
      2009年 1月22日の新作昔話 
          
           
         
  黄金のつぼ 
  静岡県の民話 → 静岡県情報 
       むかしむかし、梅が枝(うめがえ)という女の人がいて、平家の武士の梶原景季(かじはらのかげすえ)と一緒に、旅をしていました。 
         途中で路銀(ろぎん→旅費)が少なくなって宿賃も払えず、ほとほと困り果ててしまいました。 
         そのとき梅が枝は、ふと、釣り鐘のたましいをなぐさめて、お金持ちになった人たちの話を思い出しました。 
         それは、こんな話しです。 
         あるお寺に、それはそれは響きのよい鐘がありました。 
         どうしたことか、その鐘が沼の底に沈んでしまったのです。 
         それで、村の人たちは、 
        (もう、あの鐘の音を聞くことが出来んのか) 
        と、悲しんでいました。 
         そして、 
        (沈んだ鐘も、さぞ無念だろう) 
        と、鐘のかわりになるものを打ち壊して、その音を沈んだ鐘に聞かせては、なぐさめていたのです。 
         こうしたやさしい心が沼の鐘に通じて、貧しかった村の人たちは、それからお金持ちになったというのです。 
         梅が枝は、この話しを思い出して、 
        (何か鐘のかわりに、打ち壊す物はないかしら?) 
        と、しばらく考えていましたが、 
        「ああ、そうそう」 
         つぶやいて立ちあがると、しょうじを開けて縁側に出ました。 
         そしてすたすたと歩いていって、かわや(→トイレ)の側にあった手水(ちょうず→手洗い)ばちをとりあげたのです。 
         とりあげると、その手水ばちを、 
         チンカンチンカン 
        と、たたきつづけて、大きな声で、 
        「黄金、三両くださいまし!」 
        と、叫ぶと、下の石に打ちつけて、 
         ガシャーン! 
        と、たたき割ってしまいました。 
         その音を聞いて、同じ宿に泊まっていた一人の客が出てきました。 
        「もし。さっきから、手水ばちをしきりにたたいておられたが、にわかに大声を出して、割ってしまわれるとは、何かわけでもございますか?」 
         そこで梅が枝は、路銀に困っていることを打ち明けました。 
         すると客は、思いつめた願いに心を動かされて、 
        「なるほど、さようなことでござりましたか」 
        と、願い通りの三両を、梅が枝にくれたのです。 
         さて、この話しが広まって、 
        「梅が枝さんに、あやかりたい」 
        と、あちこちで梅が枝のうわさが持ちきりです。 
         ところで大井川(おおいがわ)のそばに、一人の百姓がいました。 
         百姓といっても、この男は田も畑も作りません。 
         毎日、ぶらぶらと遊び歩いてばかりいました。 
         そのため、いまでは田も畑も売って、すっからんです。 
        「ああ、金がほしい」 
        と、毎晩、つぶやいていましたが、ちょうどそのころ、梅が枝のうわさを聞いたのです。 
        「こりゃあ、いいことを聞いたぞ」 
         男はさっそく、ねんどをこねて手水ばちを作ると、 
        「ほしいわ、ほしいわ。黄金三両」 
        と、何度も何度もわめいたあげく、そのねんどのはちを、石にぶつけてたたき割ったのです。 
         すると、はちがくだけちった地面から、スーと、まっ白な着物を着た女の神さまが現れたのです。 
         その両手には、ふたをしたつぼを大事そうに持っています。 
         女の神さまは、にっこりわらうと、すずをふるような声で男に言いました。 
        「あなたの願いが、あんまり一生懸命なので、わたくしもだまっているわけにはまいりませぬ。それで、せめてこの黄金なりとさしあげたく、ここに持参いたしました。では、どうぞ」 
         ふたをしたつぼを男に手渡すと、女の神さまは安心したように、地面の中へ消えていったのです。 
        「うむ、これは、なかなかの物だ」 
         男は、ずっしりと重いつばを持って、 
        「女房、喜べ。黄金のつばが手にはいったぞ」 
         男は大きな声でよびながら、つばをしっかり持って家の中へはいってきました。 
         すると女房が、台所からとんできて、 
        「しーっ。声が大きいよ」 
         だれにも聞かれないようにと、手まねをします。 
        (うん、うん) 
        と、男はうなずいて、女房の前に大事なつばを差し出しました。 
       にっこり笑った女房が、つぼのふたをとって見ると、中には黄金色のうんちが、つぼいっぱいに入っていたということです。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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