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2009年 3月24日の新作昔話
杭にぎり
福井県の民話 → 福井県情報
むかしむかし、向笠(むこうがさ)と言うところに、伊太郎(いたろう)という男が住んでいました。
ある晩、酒に酔っぱらったいた伊太郎が上気嫌で村の近くまで帰ってきた時、後ろからついてくる美しい娘に気がつきました。
(ははーん。これはキツネだな。おれさまをだまそうとしているのだな)
そう思った伊太郎は、突然娘の手をつかみ、
「お前がキツネだということはわかっているんだ。酔っぱらいのおれさまをだまそうとしたって、そうはいかないぞ。この手は絶対にはなさんからな」
と、言いました。
びっくりした娘が、涙ながらに、
「あたしはキツネではありません。どうか、手をはなして下さい」
と、頼んでも、伊太郎は前より強く握るばかりです。
しばらくして、娘が困り果てたような小さな声で言いました。
「お願い、用を足したいの。だから手を離して」
娘はおしっこをしたいと言うのですが、伊太郎はプイと横を向いて、
「逃げようたって、そうはいかん。このままそこでしろ」
と、言います。
娘はしかたなくその場で、ショボショボ音をたてながら用を足しはじめました。
ところがかなり時がたっても、このショボショボという音は、いっこうに止む気配がありません。
伊太郎はだんだん気になってきましたが、かといって見るわけにもいかず、握る手にいっそう力を入れました。
そのうちに、夜が白々と明けてきました。
(いくらなんでも、これはおかしい)
酔いの覚めてきた伊太郎は、意を決して娘の方を見てびっくり。
「しまった! だまされたー!」
なんと娘の手だと思っていたのは杭(くい)で、水門の水がショボショボと流れていたのです。
おしまい
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