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2009年 4月6日の新作昔話
こぶとり
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
そのきっちょむさんの住む村には、両方のほっぺたに大きなこぶのある、おじいさんが住んでいました。
そのこぶは、ほうっておいても何の害もないのですが、こぶが気になって仕方のないおじいさんは、そのこぶを治そうと、あちこちの医者に診てもらいました。
しかし、こぶはいっこうに治らず、高い薬代のおかげで、家はだんだん貧しくなっていきました。
それでもおじいさんはあきらめず、江戸(えど→東京都)の名医に診てもらう費用を得るために、自分の家を売ってしまおうと考えたのです。
これを知った息子の太郎兵衛は、あわててきっちょむさんに相談しました。
「何とかして、うちのじいさまに、こぶの療治をあきらめさせる法はないものだろうか?」
するときっちょむさんは、にっこり笑っていいました。
「よし、おれにまかせろ。明日、おれが行ってこぶをとってやるからな」
次の日の朝、きっちょむさんは腰に手オノをさして、手にはざるを持ち、おじいさんの家の前に立って大声をあげました。
「えー、こちらは、こぶ屋です。こぶはありませんか。こぶがあったら高く買いますよ」
すると思った通り、おじいさんが飛び出してきました。
「こぶを買い取るとは、本当か!」
するときっちょむさん、とてもまじめな顔で言いました。
「はい、わしは昨日山に行って天狗からこぶの注文を受け、こぶとりの術を教わってきました。おじいさん、あんたのこぶが不用なら、わしに売ってくれませんか。値段は、一つ八文だから、両方で十六文だ」
「なんと、それはありがたい! こぶを取る為には、家を売ってもかまわないと思っていたところだ。それが十六文で売れるなんて。さあ、はやく取ってくれ」
おじいさんは、大喜びでこぶを売ることにしました。
きっちょむさんは、こぶ代の十六文を払うとおじいさんを土間に座らせて、適当な呪文を唱えながらこぶをなでていましたが、とつぜん、右手に隠していた手オノを振り上げたのです。
それを見たおじいさんは、びっくりして叫びました。
「きっちょむさん! 何をするつもりだ!?」
「何って、この手オノで、こぶを切り落とすんだ!」
「め、めっそうな! そんな事をしたら、命がなくなってしまう」
「命がどうなるかは知らない。ただわしは、こぶだけ買ったのだから」
「きっちょむさん、許してくれ! もうこぶは売らない」
「こぶがおしくなったのか?」
「うん、おしくなった!」
きっちょむさんは、やっと手オノを下において、
「じゃ、今日はやめておこう。だが、こぶの代金は払ってあるのだから、大事にしまっておいてくださいよ」
そしてきっちょむさんは、となりにいた息子の太郎兵衛に言いました。
「太郎兵衛、お前が証人だ。おじいさんがこぶを邪魔だといったら知らせてくれ、すぐに取りに来るから」
「うん、わかった。じいさまがちょっとでもこぶを邪魔だと言ったら、すぐに知らせるよ」
それから、おじいさんは、こぶをとる事をあきらめたということです。
おしまい
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