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2009年 4月10日の新作昔話
山を持ってくる
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、ゆかいな人がいました。
ある日の事、近所の貧しい家に借金取りがやってきて、
「早く金を返せ! 返さなければ、この家を焼き払ってしまうぞ。それとも、お前の娘を借金の代わりにもらおうか!」
と、おどしていました。
さあ、これを見ていたきっちょむさんが、思わず借金取りに言いました。
「やめろ! この人の借金をただにしてくれるなら、どんな事でもしてやるから」
するとそれを聞いた借金取りは、ニヤリと笑って、
「ほう、きっちょむさんか。これはおもしろい。それなら、向こうに見えている山をこの村まで引っ張って来てもらおうか。それが出来たなら、借金をただにしてやるぞ」
山を持ってくるなんて、出来るはずがありません。
ところがきっちょむさんは、軽く胸をたたいて言いました。
「よし、わかった。お前のいう通りにしてやる。だから約束は守ってもらうぞ」
借金取りは、それを聞いてあきれました。
「何を馬鹿な事を。いくらとんちの名人でも、そんな事が出来るはず無いだろう」
「いいや。出来るよ」
「なら、やってもらおう。あとで謝っても許さんぞ!」
「そっちこそ、ちゃんと約束は守ってもらいますよ」
さて、きっちょむさんは村の人たちにわけを話して、どの家ののき下にも、あるだけのたき木を積み上げてもらいました。
それから荷車にたき木を山のように積んで借金取りの家に行き、そののき下にもたき木を積み上げました。
すると借金取りは、怖い顔できっちょむさんに言いました。
「やい、やい。わしが持って来いと言ったのは山だ。たき木じゃないぞ」
するときっちょむさんは、たき木を積み上げながら、
「はい。約束通り山を持ってきますよ。ですが、山を引きずって来るのに村の家が邪魔になります。だからその前に、家をみんな焼き払ってしまうのです」
と、言ったかと思うと、積み上げたたき木に、火をつけようとしました。
借金取りはびっくりです。
「ま、待ってくれ。そんな事をしたら、生きていけないだろう」
「そうです。あの人だって家を焼かれたら生きていけません。どうです? あの人の借金をただにしてくれるのなら、山を持ってくるのも、邪魔な家を焼くのもやめますが」
きっちょむさんが、すまして言いました。
「むむむっ。わかった、わかった。わしの負けだ。山を持って来なくてもいいし、借金もなかった事にしてやろう」
「ありがとうございます」
きっちょむさんは、ニッコリ笑いました。
それを見た借金取りは、苦笑いで言いました。
「やれやれ、きっちょむさんと勝負なんかするんじゃなかった」
おしまい
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