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2009年 4月13日の新作昔話
とり年生まれ
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、あるところに、きっちょむさんという、ゆかいな人がいました。
きっちょむさんの村の庄屋さんは、たくさんのニワトリを飼っていますが、ニワトリを放し飼いにするので村人たちはすっかり困っていました。
「また、庄屋さんとこのニワトリが、家の野菜畑を」
「こっちは、ほしもみが食われてしまった」
そこで村人たちが、庄屋さんのところへ文句を言いに行ったのです。
「庄屋さん、ニワトリの放し飼いだけは、やめてくだされ」
すると庄屋さんは、平気な顔で、
「わしは、酉年(とりどし)生まれだから、ニワトリだけは、大事に飼わなければならんのでな」
と、言って、放し飼いをやめようとしません。
そんなある時、このニワトリがきっちょむさんの野菜畑に入って、大根の葉をすっかり食い荒らしてしまいました。
「ああっ、家の大根が!」
怒ったきっちょむさんは、大きな草かりがまをふり上げて、畑を荒らす十羽のニワトリを殺してしまいました。
それを知ったおかみさんは、びっくりです。
「お前さん、大変な事をしてくれたねえ。何と言ってあやまりに行ったらいいんだい」
「なあに、まかしておけ。それより今夜は、村の衆を呼んで、鳥料理のごちそうだ」
きっちょむさんは、平気な顔で言いました。
さて次の朝、きっちょむさんは大がまをふり上げて、庄屋さんの家に飛び込みました。
「もう、がまんならねえ! 村の衆にかわって、庄屋さんの首をもらいに来た!」
「こら、きっちょむ! それは何の事だ!?」
「おめえさまを生かしておけば、村の衆の命が危ねえからだ」
「命が危ない? そら、いったいどうして?」
「庄屋さんとこじゃ、ニワトリを放し飼いにしとるだろうが!」
「そ、そりゃ、わしが酉年の生まれだから、ニワトリを」
「それだ! だからおら、おめえさまの首を切りに来たんだ。村の衆の命が危ねえ」
きっちょむさんは、大がまをふり上げて言いました。
「ま、待ってくれ、きっちょむ。ニワトリの放し飼いが、何で村の衆の命に?」
「そら、庄屋さん、考えてもみなされ。みんなが自分の生まれ年のけものを放し飼いにしたらどうなるか。お前さまは酉年だからまだいいが、村の中にはトラ年生まれも、竜年生まれもいる。トラや竜を放し飼いにしたら、村の衆の命はどうなる?!」
きっちょむさんは、一段と高く、大がまを振り上げました。
「わかった、わかった。放し飼いはやめるから! いや、もう二度とニワトリは飼わないから! だから、かまを下ろしてくれ!」
庄屋さんはきっちょむさんに、ぺこぺこと頭を下げて頼みました。
「そうか。村の衆の命が危ねえから、ニワトリ十羽の首はもらったが、庄屋さまの首はやめとするか」
きっちょむさんはそう言うと、振り上げた大がまを下ろして、引きあげて行きました。
おしまい
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