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2009年 4月15日の新作昔話
かめかつぎ
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある、お正月の事、町へ行ったきっちょむさんは、せともの屋へ立ち寄って、十枚ひと組の皿を五十文で買ってきました。
ところが家に戻って数えてみると、十枚あるはずが九枚しかありません。
せともの屋の主人の重兵衛(じゅうべえ)が、数え間違えたのでしょう。
重兵衛はへそ曲がりで有名でしたが、きっちょむさんとは顔見知りだったので、二、三日たって町へ行ったついでに店に立ち寄り、
「重兵衛さん、この間買った、十枚ひと組の皿の事だが、家に戻って数えてみたら、一枚少なかったよ」
と、いいました。
ところが重兵衛は、
「そうかい、それは気の毒でしたなあ。じゃ、代金は九枚分だけもらっておくよ」
と、いつもと違って、ニコニコしながら言いました。
「おや? 重兵衛さん、今日はやけに話がわかるねえ。まあ、代金は九枚分にしなくてもいいから、足りなかった分の皿を一枚もらっていくよ」
そう言って、同じ皿を一枚取ったきっちょむさんが店を出ようとすると、重兵衛さんがあわてて引き止めました。
「おいおい、きっちょむさん、ちょっと待って!」
「なんだい?」
「皿を泥棒するつもりか? ちゃんと皿の代金をおいていきな」
さっきとは違って怖い顔の重兵衛さんを見て、きっちょむさんは思いました。
(やれやれ、やっぱり本性を現してきたな)
「皿の代金だって? ちゃんとこの間、五十文を払ったじゃないか」
すると重兵衛は、皿の値段が書いた張り紙をつき出して言いました。
「この張り紙を読んでみな。お前が買った皿は、十枚ひと組だと五十文だが、バラ売りだと、一枚が六文と書いてあるだろう。だから九枚では五十四文。それに今日の一枚が六文で、合わせて六十文だ。この前の五十文を差し引いても、まだ十文が足りないじゃないか」
「なるほど、たしかに十文足りないな。こいつは、まいった」
さすがのきっちょむさんも、してやられたとばかりに頭をかいて、いさぎよく十文を払いました。
「では、代金の十文」
代金を受け取った重兵衛は、
「どうだい、きっちょむさん。あんたも商売上手と聞くが、本当の商売上手とは、おれみたいな者を言うんだよ。あはははははっ」
と、大笑いしました。
この大笑いさえなければ、きっちょむさんは素直に帰ったのですが、この事が、きっちょむさんのとんちに火を付けたのです。
「いや、まったく、あんたにはかなわないなあ。・・・して、ときに重兵衛さん、このかめはいくらするかね?」
きっちょむさんはそういって、店先にたててある、大きなかめを指差しました。
一人ではとてもかつげないほどの、大きなかめです。
「ああ、それなら一両だ」
「安い! 一両とは安いなあ。じゃあ、今日はこのかめも買って帰るとするよ」
「おいおい、きっちょむさん、買ってもらうのはありがたいが、こんな大きなかめを、お前一人でかつげるものか」
「なに、平気だよ」
「三人がかりで、やっと運んできたんだぞ」
「大丈夫。これくらいの物がかつげないようでは、百姓はできないよ」
「ほう、こりゃおもしろい。もしお前さん一人でこのかめがかつげたら、代金はいらん。ただでやろう」
「そりゃ、本当かい?」
「本当だとも」
「よし、ではかついでみせるよ」
きっちょむさんはそう言うと、近くにあった石を両手で持ち上げました。
「おいおい、きっちょむさん。何をするつもりだ?」
「なに、このままでは持ちにくいから、この石でかめを粉々にしてやるのさ。そうすりゃあ、何回かにわけて持って帰れるだろう」
「あっ、そうきたか!」
「じゃあ、ここで割らしてもらうよ」
そう言って、再び石を持ち上げるきっちょむさんを、重兵衛さんはあわてて止めました。
「まて、待ってくれ!」
「いや、待てぬ。いますぐ持って帰るのだから」
「しかしそれでは、一両を失ったのと同じだ。いくら何でも、そんなもったいない事は」
「よし、ではこのつぼを売ってやるよ。一両のところを、たったの百文でどうだ? それがいやなら、ここで割るぞ」
重兵衛さんは仕方なく、自分の負けを認めました。
「ま、まいった。そのつぼを百文で買わせてもらうよ。・・・とほほ、やっぱりきっちょむさんは、商売上手だ」
こうしてきっちょむさんは、重兵衛さんから百文を受け取ると、ホクホク顔で帰ったのでした。
おしまい
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