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2009年 4月24日の新作昔話
たごかつぎ
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
きっちょむさんの村には、平助(へいすけ)という、うそつきの名人がいました。
この平助は、うそでだました相手の困った顔を見るのが大好きで、その為にはどんな努力も惜しまないのです。
村人は、だれも二度や三度はだまされていますが、さすがにきっちょむさんだけは、一度もだまされた事がありません。
ですから平助は、いつかきっちょむさんをだましてやろうと思っていたのでした。
ある年、きっちょむさんの大事にしていたメス馬の『青』が子どもを妊娠しました。
いよいよ子どもが産まれる月となって、朝から青の様子がおかしいのです。
きっちょむさんは喜んで、
「さあ、いよいよ子馬が生まれるぞ」
と、思いましたが、あいにく今日は、城下町の出入りの屋敷に、下肥(しもごえ→人の糞尿を肥料としたもの)をくみにいく日なのです。
そこできっちょむさんは、メス馬の青の事を両親によく頼んで町へ出かけました。
きっちょむさんが大急ぎで肥(こえ)をくみ、重たいたごをかついで町はずれまで帰ってくると、向こうの方から急ぎ足でやってきた平助とばったり出会いました。
「平助、どこへいくんだ?」
「ああ、町へ買い物に行くんだ」
ここで平助は、きっちょむさんをだますうそを思いつきました。
「そうだ! きっちょむさん、大変だぞ!」
「どうしたんだ?」
「お前の青が子を産みかかったが、とても難産で親も子も死にそうなんだよ」
「え、そりゃ本当か!」
きっちょむさんは、たごをかついだまま、顔色を変えてかけだそうとしましたが、
「おっと。あんまりおどろいたんで、すっかり忘れていた。馬のお産だったら何も心配はない。おれの家には、庄屋さんからもらった馬の薬がある。どんな難産でも、それを一服飲ませると、すぐに子馬が産まれるという妙薬だよ。親父さんに頼んでおいたから、今頃はもう無事に産まれているにちがいない」
すると平助は、
「そうかい。そういえば、みんなで大騒ぎしていたが、おじさんがその薬の置き場所を忘れたのかもしれないよ」
「え? こうしちゃいられない。平助、たごは頼むよ!」
きっちょむさんはそう言うと、たごを道のまん中に置いて駆け出しました。
それを後ろから見送った平助は、大笑いです。
「あはははははっ、きっちょむさんめ、とうとう引っかかりおった。青に何のかわりもないのを見て、さぞくやしがるだろう。たごを頼まれたのは計算違いだったが、まあいい。はやく行って、きっちょむさんのくやしがる顔でも見てやるか」
平助は、きっちょむさんの置いていったたごを担ぐと、自分も大急ぎで引き返しました。
しばらくいくと、村の庄屋さんが、向こうからやってきました。
「やあ、庄屋さま。いま、きっちょむさんに出会いませんでしたか? おれにだまされて、あわてて帰ったはずですが」
平助が自慢げに言うと、庄屋さんは、『なるほど』と納得した顔で答えました。
「会うには会ったが、にこにこして歩いていたよ。そして、『平助は、思ったたよりも馬鹿なやつだな』といっていたぞ」
「な、なんだって?」
「そう言えばお前、きっちょむさんに、馬の妙薬の話を聞かなかったかい?」
「はい。庄屋さんにもらった、その薬が見つからぬといって、おどろかしてやったのですが」
「わははははっ。平助、お前、うまくかつがれたな。そんな妙薬があるものか。全部、きっちょむさんの作り話さ」
「なんですって!」
「おまけにきっちょむさんは、わざとあわてたふりをして、お前にたごをかつがせたんだよ。お前があんまり人をかつぎたがるから、きょうはあべこべに、きっちょむさんからたごをかつがせられたんだよ。さすがのお前も、きっちょむさんにはかなわないな。あはははははっ」
庄屋さんは、腹をかかえて笑い出しました。
「なんてこったい」
がっかりした平助は、仕方なく、すごすごと重たいたごをかついで村へ帰りました。
おしまい
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