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2009年 4月27日の新作昔話
麦の粉
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある時、きっちょむさんは町へ野菜を売りに行きましたが、どうしたわけか、その日にかぎって、なかなか買い手がつきません。
「野菜はいりませんか? とりたてのこまつ菜に、ほうれん草もありますよ」
すると、きっちょむさんに声を掛ける者がありました。
「おーい、きっちょむさん、きっちょむさん」
見ると、顔見知りの粉屋の主人です。
「はい。何か用ですか?」
「実はその野菜を、全部買ってやろうと思ってな」
「へい、それはどうも、ありがとうございます」
「ただし、買うといってもお金じゃない。麦の粉と交換してもらいたいのだが」
「いいですよ。ところで、麦の粉をどれほどありますか?」
「まてまて、それには、こちらから注文がある。もしお前さんが、その野菜を入れてあるざるに、紙も布も木の葉もしかずに、麦の粉がもらぬようにかついでいけたら、両方のざるにいっぱいやろう」
それを聞いたきっちょむさんは、粉屋の主人がとんち勝負をしようとしているのがわかりました。
(なるほど、とんち勝負なら、受けてやろう)
きっちょむさんには望むところですが、ざるで粉を運ぶのは、かなりの難問です。
「はっはっはっ。どうだねきっちょむさん、さすがのあんたでも、これには参っただろう」
粉屋の主人は得意そうですが、でもきっちょむさんは、しばらく考えるとニッコリ笑いました。
「へい、ではこぼれぬように、いただいてまいります。ちょっと、井戸をかりますよ」
きっちょむさんは空になった両方のざるを持って井戸に行くと、それに水をかけて帰ってきました。
「さあ、ご主人、このざるに粉を入れますね」
「えっ? そんなことをしたら、粉がこぼれて」
粉屋の主人が不思議そうな顔をしている前で、きっちょむさんはぬれたざるに麦の粉を山盛りに入れました。
そしてきっちょむさんがてんびんぼうの両端にざるを引っかけて持ち上げると、ざるからは一粒の粉ももれません。
「こりゃまた、どういう事だ?」
頭を傾げる主人に、きっちょむさんは説明しました。
「こうしてざるをぬらしてから粉を入れると、うまい具合に底の方の粉が固まって、ざるの目をふさいでくれるのです。それに今、ざるを良く洗ってきたから、ざるの目に詰まった分も、乾かせばそのまま使えます」
「なるほど」
「では、粉をありがとうさんでした」
そう言って帰ろうとするきっちょむさんを、粉屋の主人があわてて引き止めました。
「ま、待ってくれ! 麦の粉をざるいっぱい持って行かれては大損だ! 野菜は倍の値段で買うから、粉を返してくれないか」
きっちょむさんは心の中でニンマリ笑うと、
(助かった。こんなに重い粉を持って帰るのは一苦労だからな)
と、思いつつも、粉屋の主人には、いかにも仕方ないという顔で言いました。
「やれやれ、では野菜が全部で五十文なので、倍の百文もらいますよ」
こうしてきっちょむさんは、空のざるをかついで、ほくほく顔で帰って行きました。
おしまい
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