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2009年 5月29日の新作昔話
老人と三人の若者
ロシアの昔話(クルイロフ童話) → ロシアの国情報
むかしむかし、あるところに、一人のおじいさんが杉の苗木を植えていました。
「早く、立派な木になれよ」
そんな、木に語りかけるおじいさんを見て、三人の若者が笑いました。
「はん。もうすぐ、この世からおさらばしようという年になって、そんな事したって無駄さ。木が大きくなる前に、あんたの方がくたばっちまうさ」
「そうさ。それともあんたは、あと百年も二百年も生きるつもりかい?」
「あははは。そうやって木を植えるより、自分の墓を掘った方が利口だぜ」
それを聞いたおじいさんは、若者に腹を立てるどころか、静かな微笑みを浮かべて答えました。
「なあに、わしは子どもの頃から、働く事にはなれておる。いくつになっても、働く事は楽しいもんじゃ。それに人間というものは、自分の為にだけ働くのではないよ。そりゃ、この苗木が大木になるまでは、わしは生きておらんじゃろうが、やがてこの木の下で孫たちが遊ぶようになると思うと、それだけでも、わしは幸せなんじゃ」
おじいさんは苗木を植え続けながら、さらに話を続けました。
「あんたたちは若くて、これから何でも出来るだろう。だがな、死というものは、そんな事には気をつかってくれん。わしはこの年までに、何人も何人も、若くてきれいな娘さんや、たくましい青年を墓場に見送ったことか。生きているものは、年の順番に死んでいくのではない。だれが先に死んで、だれが長い生きするかは、だれにもわからんのじゃ。だからこそ、若者も年寄りも、今を精一杯生きなければならん。働ける間は、働かねばならん。それが一番大事な事だと、わしは思うよ」
この老人の言った、若者が老人よりも先に死ぬ事もあるといった言葉は、それから少しして本当になりました。
三人の若者のうち、一人は船で商売に出かけましたが、途中でひどい嵐に会って、船もろとも海に沈んでしまったのです。
もう一人の若者は外国へ行き、仕事に成功して贅沢な暮らしをしましたが、そのために体を悪くして、死んでしまったのです。
そして三人目の若者は、夏の暑い日に冷たい物を飲みすぎて病気になり、さらに腕の悪い医者の治療によって、助かる命をなくしたのです。
彼らの死を知ったおじいさんは、
「かわいそうに。せめてお前たちの分も、木を植えてやろうな」
と、目にいっぱいの涙を浮かべながら、新しい三本の苗木を植えました。
どんなに若くて元気でも、人間はいつ死ぬかわかりません。
若いからと言ってだらしない生活をせずに、毎日を精一杯生きてください。
おしまい
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