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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > チロリン橋
夏の怖い話し特集
2009年 7月20日の新作昔話
チロリン橋
千葉県の民話 → 千葉県の情報
むかしむかし、とても貧乏な一家が住んでいました。
ある日、お母さんは十歳になったばかりの娘のお春に言いました。
「お春。わたしたちはとても貧乏だ。田も畑もみんな長者さまの物で、わたしが朝の日の出より早く働いて、夜に星が出るまでがんばっても、暮らしは、ちっとも良くならねえ。それに、お父さんも無理がたたって寝込んでしまった。それに、家にはお前よりも小さい「お咲」や「作次」、それから赤ん坊の「吉三」もいる」
「うん」
「そこでお前には、隣村の長者の家へ子守りに行って欲しいのだけど、どうだろうか?」
するとお春は、しっかり頷くと大きな声で言いました。
「わかった。わたし、子守りに行ってくる! お父さんの病気が治るまで、何年でも行って来る!」
「そうか。ありがとう」
お母さんは、お春に笑いかけようとして、思わず涙をこぼしてしまいました。
お母さんも子どもの頃に子守りをした事があるのですが、それはそれは大変な仕事です。
子守りといっても、赤ん坊の世話だけではありません。
みんなが目を覚まさないうちに起き出して、「かまどの飯炊き」、「湯沸かし」をします。
そして、みんなの朝飯が終わると、急いでわずかなごはんをかき込んで、食事の後始末です。
その後、ぐずる赤ん坊をあやしながら、「洗濯」、「拭き掃除」を終わらせ、「昼飯」、「晩飯」、「お風呂」の準備をするのです。
もう、体がいくつあっても足りないほどです。
でも、お春は涙をこらえて、
「お父さんの病気が、良くなるまでは」
と、歯を食いしばって頑張りました。
そんな毎日が、一年、二年、そして三年続いた、ある冬の事です。
長者が仏壇の奥にしまっておいたお金が、無くなってしまったのです。
家に奉公に来ている人たちは、順番に調べられましたが、誰も、
「知らねえ」
と、言います。
そして今度は、お春が調べられました。
長者は怖い顔で、
「お前の家は、えらく暮らしに困っているからな。すぐに白状して金を出せば、今度だけは堪忍してやってもいいぞ」
と、何度もしつこく言って来るのです。
そこでお春が、
「知らねえ、知らねえ」
と、いくら首を横に振っても、信じてはくれないのです。
「盗んだのは、お前しかいないんだ! 明日も取り調べてやるから、覚悟しろ!」
さて、その夜の事です。
お春は、みんなが寝静まるのを待って、そっと屋敷を抜け出しました。
ふところには、お春が七つの祝いに買ってもらった、大事な赤いぼっくり(女の子用の下駄)を抱いています。
お春は、まっ暗な田んぼ道を、
「お母さん! お父さん!」
と、心の中で叫びながら走りました。
そして何度も転びながらも、ようやく懐かしい家に帰ってきたのですが、お春は家の前に立ちつくしたまま、家に入る事が出来ませんでした。
お春が奉公に出たお金は、すでに前払いでもらっているので、お春が逃げ帰ったと分かると、そのお金を長者に返さなければならないのです。
(お母さん・・・。お父さん・・・)
帰るに帰れないお春は、いつの間にか、村境の橋の上に立っていました。
ふところに入れたぼっくりの鈴の音が、小さく、
♪チロリーン
♪チロリーン
と、鳴っていました。
(もう、どうしたらいいのか分からない。長者の家には帰りたくないし、自分の家には帰れないし)
次の瞬間、
ザッパーン!
お春は自分でもわからないうちに、川へと身を投げてしまったのです。
そしてお春は、死んでしまいました。
その後、無くなっていた長者のお金が別の所から出てきたのですが、長者はお春が死んだのは自分には関係ないと、線香の一本もあげなかったそうです。
そして、お春が身を投げたこの橋は、今でも、この橋を渡る時に耳をすますと、
♪チロリーン
♪チロリーン
と、ぽっくりの鈴の音が聞こえてくると言われています。
そこで村人たちは、この橋を『チロリン橋』と呼ぶようになったそうです。
おしまい
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