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2011年 4月2日の新作昔話
餅屋の値段
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある日の事、きっちょむさんは、馬にたきぎを積んで町まで売りに行きました。
「えー、たきぎはいらんかねー。たきぎはいらんかねー」
そう言って売り歩いていると、餅屋の主人が店から出て来て言いました。
「おい、お前が引いているのを全部買いたいが、値段はいくらだ?」
吉四六さんは、てっきりたきぎの値段を聞かれたのだと思ったので、
「へえ、ありがとうございます。全部でちょうど、百文です」
と、答えました。
それを聞いた餅屋の主人は、ニヤリと笑うと。
「百文とは安いなあ。それ、代金だ」
餅屋の主人は吉四六さんに百文を握らせると、たきぎを積んでいる馬ごと引っぱって行こうとしました。
吉四六さんは、びっくりして、
「こら、何で馬ごと持って行くんだ?」
と、言いましたが、餅屋の主人はすました顔で言いました。
「わしは、お前が引いているのを全部でいくらだと聞いたんだ。するとお前は、全部でちょうど百文だと答えた。だから馬ごと持って帰っても、文句を言われる筋合いはない」
「し、しかしそれは・・・」
「代金を受け取ったからには、この馬はおれの物だ」
「・・・・・・」
こうして餅屋の主人に、たった百文で馬を取られたきっちょむさんは、
(そっちがその気なら、こっちにも考えがある)
と、仕返しの方法を考えました。
さて、その日の夕方、餅屋の主人が店で忙しく働いていると、客の一人が餅屋の主人に尋ねました。
「ほほう、いい店だな。いくらだ?」
聞かれた餅屋の主人は、他の客に餅を渡しながら、後ろを向いたまま答えました。
「ああ、二十文だよ」
「安い! 買ったぞ!」
「はい。ありがとうございます」
お金を受け取った餅屋の主人が、ふと、その客を見てみると、その客はきっちょむさんでした。
餅屋の主人は、怖い顔できっちょむさんをにらみながら言いました。
「ややっ、きっちょむさんか。餅を買って機嫌を取っても、馬を返してはやらないぞ」
しかしきっちょむさんは、ニコニコ笑うと、餅屋の主人に言いました。
「いや、あの馬を帰してもらおうとは思わないよ。それよりも、早くこの店を出て行ってくれるかな。この店は、おれが二十文で買ったのだから」
それを聞いた餅屋の主人は、びっくりです。
「馬鹿を言え! おれがいつ、二十文で店を売った!」
「売ったよ。おれが『いい店だな。いくらだ?』と言ったら、お前さんは「ああ、二十文だよ」と言って、代金の二十文を受け取ったじゃないか。代金を受け取ったからには、この店はおれの物だよ」
「ああ、しまったー!」
それから餅屋の主人はきっちょむさんに土下座して謝り、きっちょむさんに馬と山盛りの餅を渡す事で、どうにか許してもらったという事です。
おしまい
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