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4月2日の小話
わすれ草
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「わすれー草、わすれー草は、いれらんかえー」
と、花売りの売り声が聞こえてきました。
わすれ草とはユリ科の多年草で、葉は細長くて、夏に大きなユリに似た橙赤色の花を一日だけ咲かせます。
「ほう、わすれ草とは珍しい名だ。おい、どんな草か、わすれ草を見せておくれ」
「はい、ただいま」
「何だ、葉っぱばかりしげって、つまらぬ草じゃないか。これは何か、薬にでもなるのかい」
「はい、わすれ草を干した物をタバコにして吸えば、苦労をわすれ、夏には暑さをわすれ、冬には寒さをわすれ、年を取っても年をわすれます」
「そいつは不思議な草だな。おもしろい、買うとしよう。して、値段は?」
「はい。えー、・・・」
花売りは、しばらく考えて言いました。
「・・・いくらか、わすれました」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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