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2012年 12月14日の新作昔話

魚の精にさらわれた父親

魚の精にさらわれた父親
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 むかしむかし、王(わん)という漁師の若者が、月の明るい夜の湖を船で渡っていました。
 水面は月の光を照り返して、キラキラと光り輝いています。
「よい景色だ。・・・おや?」
 突然、目の前の水がざわめいて、五人の男が現れたのです。
「み、水の上に、人が立っている?!」
 おどろいた王は船をとめて、少し離れた所から男たちの様子を見つめました。
 五人の男たちのうち三人は、頭に黒いずきんをつけて偉そうにしています。
 残りは、子どもと老人でした。
 五人は王に気づかず、水の上にむしろをしいて宴会を始めました。
 王は老人の顔を見て、びっくりしました。
「あの老人、死んだお父さんにそっくりだ」
 王のお父さんは、けまりの名人でした。
 シカの皮で作ったまりを、たくみに蹴る事が出来たのです。
 王にも熱心に教えてくれたので、王もけまりの名人として有名です。
 しかしそのお父さんは、九年前に川に落ちて死んでしまったのです。
「お父さんには、もっともっと長生きをして、色々な事を教えてもらいたかったな」
 王は大岩を片手で持ちあげるほどの力持ちでしたが、お父さんの事を思い出すと涙が出てきました。
 お父さんに似た老人と子どもは、三人の黒ずきんの召使いのようでした。
 黒ずきんの三人は、飲めや歌えの大騒ぎをしています。
「月はよし、湖はよし。飲んで遊ぶには最高の夜だ。おい子ども、まりを持って来い」
 すると子どもが湖に飛び込んで、キラキラ光る玉を持って戻って来ました。
 男たちが、老人に言いつけました。
「召使い。お前から先に蹴ってみろ」
 言われた老人がポーンと玉を蹴った時、王は叫びそうになりました。
 老人の蹴り方が、死んだお父さんと同じだったからです。
「まさか、お父さん?」
 玉が落ちてくると、老人はもう一度ポーンと蹴ります。
「あの蹴り方は、絶対にお父さんだ!」
 王は一心に、老人を見つめました。
「お父さんの幽霊だろうか?」
 その時、玉が王の頭の上に飛んできたのです。
「あっ」
 考えるより先に体が動いて、王はその玉をポンと蹴り上げました。
 見事な蹴りに、玉は空高くあがっていきました。
 そして花火のように空中ではじけて、消えてしまいました。
 これを見て、三人の黒ずきんが怒りました。
「よくも、我々の遊びの邪魔をしたな!」
「捕まえろ! 殺してしまえ!」
 黒ずきんの男たちは水の上に立ち上がると、飛ぶように走って来ます。
「ま、待ってください!」
 老人は黒ずきんの男たちを止めようと、両手を広げて立ちふさがりましたが、
「邪魔だ、どけ!」
と、蹴り倒されてしまいました。
 すると老人が、王に叫んだのです。
「逃げろ! 王!」
 その時、黒ずきんの一人が、老人を刀で切りつけようとしました。
「お父さん、危ない!」
 王は船にあった魚を入れるカゴをつかむと、それを黒ずきんの男めがけて蹴りつけました。
 王の蹴ったカゴは黒ずきんの男の頭に命中して、倒れた黒ずきんの男は水中に沈みました。
 そして王は襲ってきた二人の黒ずきんを蹴り倒すと、黒ずきんから奪った刀で一人の黒ずきんの片腕を切り落としました。
 これにはさすがの黒ずきんも、あわてて水の中へ逃げて行きました。
 いつの間にか、召使いの子どもの姿も消えています。
「助かったのか? ・・・あれは!」
 逃げた黒ずきんの男たちが集まって、一匹の大ナマズに姿を変えました。
 大ナマズはパックリと口を開けて、王の乗っている船に突進してきます。
 ゴオオオオーッ!
「怪物め、船ごと飲み込むつもりだな。そうはさせないぞ」
 力持ちの王は船のいかりを持ち上げると、怪物の口めがけて投げつけました。
 フギャーーー!
 いかりが命中した怪物は苦しそうに悲鳴をあげると、そのまま沈んでしまいました。
 やがて湖に、元のしずけさにもどりました。
 すると老人が王にかけよって、王の体をしっかりと抱きしめました。
「息子よ、よくやってくれた。川に落ちたわしは、今まで魚の精どもにつかまっていたんだ。お前が魚の精をやっつけてくれたから、わしは自由の身だ。ありがとう」
「魚の精ですって」
「そうだ。ほらここに、お前が切り落した男の腕があるだろう」
 見るとそれは腕ではなくて、大きな魚のひれだったのです。
 それから王とお父さんは、いつまでも一緒に暮らしたのでした。

おしまい

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