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夏の怖い話し特集
2013年 8月30日の新作昔話
ネコとの約束
山形県の民話 → 山形県情報
むかしむかし、ある村に、一匹の年老いたネコを飼っているおじいさんとおばあさんがいました。
ある年の事、村に何年かぶりに芝居小屋がやって来ました。
おじいさんもおばあさんも芝居が大好きですが、家を留守にするのは無用心なので、どちらかが家に残らなくてはなりません。
そこで、おじいさんが言いました。
「ばあさん。わしは何度も芝居を見たから、今回はお前が行ってこい」
「すみません。では、留守をお願いします」
おばあさんは近所の人たちと、喜んで芝居見物に行きました。
「今日は、お前とわしの二人で留守番だ。ばあさんにはああ言ったが、わしも芝居に行きたかったな」
おじいさんが居間でネコをなでながら言うと、突然、ネコが人間の言葉でこう言ったのです。
「なら、私がネコの踊りを踊ってあげるよ。おじいさん、手ぬぐいを貸してくださいな。そして、手拍子を打ってくださいな」
おじいさんは、ネコがしゃべった事にびっくりしましたが、
(まあ、うちのネコはかしこいから、しゃべっても不思議ではないか)
と、思い、ネコに手ぬぐいを渡すと手拍子を打ちました。
するとネコは手ぬぐいで頬被りをして二本足で立ち上がると、手拍子に合わせて手足を動かして、それは上手に踊りを踊ったのでした。
ネコの踊りにすっかり満足したおじいさんがお礼を言うと、踊り終わったネコが真剣な顔で言いました。
「おじいさん、さっきの踊りは代々ネコの世界に伝わる踊りで、本当は人間に見られてはいけない決まりになっています。私が踊ったことは、誰にも言わないでくださいね。……もちろん、おばあさんにもですよ」
「わかった。約束するよ」
それから三年が過ぎたある日、この村に再び芝居小屋がやって来ました。
すると、おじいさんはネコとの約束をすっかり忘れて、こう言ってしまったのです。
「今度の芝居も、ばあさんが行くといい。わしは家で、ネコの踊りを見ているから」
「あら、ネコの踊りだなんて、何を言っているのですか」
何も知らないおばあさんは、笑いながら出かけて行きました。
ところが、おばあさんが芝居を見終わって家に帰って来ると、なんとおじいさんはネコにのど笛を噛み切られて死んでいたのです。
「おじいさん!」
おばあさんがおじいさんに駆け寄ると、側にいたネコが口についた血をペロリとなめながら言いました。
「・・・この事を誰かに話したら、残念だけど次はおばあさんですよ」
「・・・・・・」
おばあさんは恐怖のあまりブルブルと震えるだけで、何も言えませんでした。
「その様子なら、大丈夫そうですね」
ネコは震えるおばあさんを尻目に家を出て行き、二度と帰って来なかったそうです。
ネコは長く飼い続けると人の言葉を話す、猫又と呼ばれる妖怪になると言われています。
それを防ぐには、何年(だいたい三年)かごとにネコを一度外に放して捨てた事にして、すぐに抱いて拾った事にすればよいそうです。
おしまい
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