2019年5月20日の新作昔話
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とんちの上手な人がいました。 むかしは、ところどころに関所というものがあって、通る人や荷物をきびしく調べていました。 きっちょむさんの村から町へ行くのにも、この関所を通らなければなりません。 ところが、この関所には悪いの役人がいて、 「こらこら! そのとっくりの中身は、何じゃ?! 何か良くない物を、隠しておるのではないだろうな! 今から、取り調べてやる」 と、役人は荷物の中にお酒を見つけると、取り調べと言いながらお酒を飲んでしまうのです。 そこでこまった村人たちが、きっちょむさんに頼みました。 「きっちょむさん。 お前さんのとんちで、あの役人をこらしめてはくれんか?」 役人のうわさを聞いていたきっちょむさんは、すぐに引き受けました。 「よし、まかせておけ。その役人が、二度と酒を飲まないようにしてやる」 きっちょむさんはそう言うと、さっそく町へお酒を買いに出かけました。 町からお酒を買って帰ろうとすると、あの役人がさっそくきっちょむさんを呼び止めました。 「こらこら! そのとっくりの中身は、何じゃ?!」 するときっちょむさんは、わざとこまった顔で答えます。 「はい。これは、その・・・。実は、小便が入っております」 「何、小便じゃと? ・・・ほうほう、多少は知恵を使ったようだが、このわしには通用せんぞ」 役人は、とりあえず用心にとっくりのにおいをかぐと、ニンマリと笑って中のお酒をうまそうに飲み干しました。 「うむ、これは上物。なかなかに、うまい小便じゃ。よし、行ってよし!」 空になったとっくりをきっちょむさんに返した役人は、満足そうに言いました。 さて、それから三日後、きっちょむさんはまた町へ行くと、とっくりを下げて関所を通りました。 するとやっぱり、あの役人が呼び止めます。 「こらこら! そのとっくりの中身は何じゃ?!」 「はい。これは、その、小便が入っております」 きっちょむさんが答えると、役人はきっちょむさんを見てニンマリと笑いました。 「おおっ、お前はこの前の。少しは知恵があると思ったが、またこりずに小便とはな」 役人はきっちょむさんからとっくりを取り上げると、今度はにおいもかがずに、いきなりゴクゴクと飲みました。 しかしすぐに目を白黒させて、飲んだ物をはき出しました。 「ブーーッ! こ、こ、こら! これは、何じゃい! きさま! わしに小便を飲ませたな!」 役人は刀を抜くと、きっちょむさんに詰め寄りました。 ですがきっちょむさんは、平気な顔で言いました。 「だからわたしは、小便と申し上げましたよ」 「むっ、むむむむ」 これには役人も、返す言葉がありません。 役人は刀をおさめると、きっちょむさんに言いました。 「この、この正直者め。行ってよし!」 それから役人は関所を通る人の荷物にお酒を見つけても、もう飲もうとはしなかったそうです。 おしまい |
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