10月1日の日本の昔話
むかしむかし、『竹とりのおきな』と呼ばれる、竹とりのおじいさんがいました。 おじいさんの仕事は、山で取って来た竹でカゴやザルを作る事です。 ある日の事、おじいさんが山へ行くと、一本の竹の根本がぼんやりと光り輝いてました。 「おや? 何と不思議な竹だろう」 おじいさんは、その光る竹を切ってみました。 すると竹の中には、大きさが三寸(さんすん→約九センチ)ほどの、ぽーっと光り輝く可愛くて小さな女の子が入っていたのです。 「光る女の子とは・・・。きっとこの子は、天からの授かり物に違いない」 子どものいないおじいさんは、大喜びでその女の子を家に連れて帰りました。 そして、おじいさんが連れて帰った女の子を見て、おばあさんも大喜びです。 「まあ、まあ。なんて可愛い女の子でしょう。おじいさんの言う通り、この子は天からの授かり物に違いありませんわ」 おじいさんとおばあさんは、その女の子を自分の子どもとして大切に育てる事にしました。 おかげでおじいさんの家は、たちまち大金持ちになりました。 また不思議な事に、あの小さかった女の子はわずか三ヶ月ほどの間にすくすくと育って、それはそれは美しい娘になったのです。 大きくなった娘は、見る者を何ともいえないかぐわしい香りで包んで、その心をとてもおだやかにしてくれました。 そしてどんなに暗いところにいても夜空の月がはっきりと見えるように、体からあわい光を発していました。 そこでその娘は、『あわくゆらめく様に光り輝くお姫さま』と言う意味の『かぐや姫』と名付けられたのです。 その美しく不思議なかぐや姫を、世の男たちがほうってはおきません。 多くの若者たちがおじいさんの家にやって来ては、かぐや姫をお嫁さんにしたいと言いました。 そしてその多くの若者たちの中でも特に熱心だったのが、次の五人の王子たちです。 車持皇子(くらもちのみこ)。 阿部御主人(あべのみうし)。 大伴御行(おおとものみゆき)。 石上麻呂(いそのかみのまろ)。 と、言いました。 「誰も、婿どのとしては申し分ないのだが」 「五人のお方は、みな、それぞれに立派なお方たちじゃ。お前は、どのお方がいいのかね?」 「今からわたくしの言う、世にもめずらしい宝物を探して持って来たお方のところへ、お嫁に行きたいと思います。その宝物とは・・・」 「かぐやは、こう申しております。 車持皇子(くらもちのみこ)どのには、東の海の蓬莱山(ほうらいさん)にある《玉の枝(たまのえだ→根っこが銀、くきが金、実が真珠で出来ている木の枝)》を。 阿部御主人(あべのみうし)どのには、もろこし(→中国の事)にある《火ネズミの裘(ひねずみのかわごろも→火ネズミと呼ばれる伝説のネズミの皮で作った燃えない布》を。 大伴御行(おおとものみゆき)どのには、《竜の持っている玉》を。 石上麻呂(いそのかみのまろ)どのには、つばめが生むという《子安貝(こやすがい→タカラ貝と呼ばれるきれいな貝)》を。 それぞれ、お持ちいただきたいと」 「何という、難しい注文だ」 そこで五人の王子たちは、それらの宝物を探すために帰って行きました。 まずは石作皇子(いしつくりのみこ)が、天竺に行って仏の御石の鉢を手に入れる事は無理だと思い、大和の国(やまとのくに→奈良県)の山寺で手に入れた古い鉢をきれいにかざって、かぐや姫のところへ持って行きました。 「天竺へ行って、《仏の御石の鉢》を手に入れました」 石作皇子(いしつくりのみこ)が偽物の鉢を差し出すと、かぐや姫は布でその鉢をみがいて、 「《仏の御石の鉢》は、みがけばみがくほど光り輝く鉢です。これは、《仏の御石の鉢》ではありません」 車持皇子(くらもちのみこ)も蓬莱山(ほうらいさん)には行かず、たくさんの腕の良い職人を集めて見事な玉の枝を作らせました。 そしていかにも、蓬莱山から帰って来たと見せかけて、 と、言ったのです。 彼らは、この玉の枝を作った職人たちです。 「車持の皇子どの。《玉の枝》をお作りしたお金を、早く払ってください」 「こ、これ! こんなところで何を言う」 阿部御主人(あべのみうし)も、もろこしには行かずに、もろこしからやって来た商人から高いお金で《火ネズミの裘(かわごろも)》を買いました。 「もろこし中を探し回って、やっと手に入れる事が出来ました」 「はい。さっそく、火に入れてみましょう」 阿部御主人(あべのみうし)は自信たっぷりに火の中へ《火ネズミの裘》を入れましたが、偽物の裘は簡単に燃えてしまいました。 「もろこしの商人は、よくもわしをだましたな!」 阿部御主人(あべのみうし)は、怒りながら帰って行きました。 四番目の大伴御行(おおとものみゆき)は、《竜の持っている玉》を手に入れようと竜を探して航海に出ました。 ところが、ものすごいあらしに出会って、乗っている船が沈みそうになったのです。 王子は、嵐に向かって祈りました。 「竜神さま。 するとすぐに嵐がやんで、王子は何とか都へ帰る事が出来ました。 でも《竜の持っている玉》を手に入れる事が出来なかったので、それっきりかぐや姫のところへは現れませんでした。 「あったぞ。つばめの《子安貝》があったぞ。これでかぐや姫は、わしの妻だ」 しかし、あまりのうれしさにカゴをゆらしてしまったので、カゴをつるしたひもがぷつんと切れてしまいました。 高いところから地面に落ちた王子は、腰の骨を折る大けがです。 しかも《子安貝》と思っていたのは、ただのつばめのふんだったのです。 石上麻呂(いそのかみのまろ)はがっかりして、そのまま病気になってしまいました。 こうして五人の王子たちは、誰一人、かぐや姫をお嫁にする事は出来ませんでした。 さて、この話しがついに、帝(みかど→天皇)の耳にも届きました。 そしてかぐや姫の美しさに心を奪われた帝が、かぐや姫を宮廷に迎えると言ったのです。 帝と言えば、この日本で一番偉いお方です。 帝の力を持ってすれば無理矢理にでもかぐや姫を宮廷に迎える事は可能でしたが、帝はとても心優しいお方だったので、無理にかぐや姫を迎えようとはせずに、かぐや姫とは和歌を取り交わす関係となりました。 かぐや姫が帝と和歌を交わす関係になってから三年の月日がたった頃、かぐや姫は月を見ては涙を流すようになりました。 心配したおじいさんとおばあさんが、かぐや姫にたずねました。 「何がそんなに、悲しいのだね」 そんなある夜、かぐや姫はおじいさんとおばあさんに、泣いているわけを話しました。 「お父さま、お母さま。 「なんと! ・・・しかし大丈夫。かぐや姫はわしらの大切な娘じゃ。必ず守ってやるから」 十五夜の夜、帝はかぐや姫を守るために、二千人の軍勢を送りました。 二千人の軍勢は地上に千人、かぐや姫の屋敷の屋根に千人が並び、弓や槍をかまえて月の都から来る迎えを待ちました。 やがて月が明るさを増し、空がま昼の様に明るくなりました。 すると雲に乗った月の都の迎えたちが、ゆっくりとゆっくりとかぐや姫の屋敷へとやってきたのです。 「姫を守れ! あの者たちを追い返すのだ!」 二千人の軍勢たちは弓や槍で月の都の迎えを追い返そうとしましたが、どうした事か軍勢の体が石の様に動かなくなってしまったのです。 中には力をふり絞って弓矢を放った者もいましたが、弓矢は月の都の迎えに近づくと大きくそれてしまいます。 月の都の迎えは屋敷の上空でとまると、おじいさんにこう言いました。 「竹取りのおきなよ。姫を迎えに来ました。さあ、姫をお渡しなさい」 おじいさんとおばあさんは、かぐや姫の手を力一杯にぎりしめましたが、でもその手から力がすーっと抜けてしまいました。 かぐや姫は静かに庭に出ると、いつの間にか美しい天女の羽衣を身にまとっていました。 「お父さま、お母さま、これでお別れでございます。 そう言ってかぐや姫は、おじいさんとおばあさんに不老不死の薬と手紙を渡しました。 そしてかぐや姫は天女の羽衣で月の都のお迎えたちのところへ行くと、そのままお迎えたちと一緒にゆっくりと夜空へのぼって行き、月の光の中に消えてしまいました。 それから数日後、かぐや姫の手紙と不老不死の薬を受け取った帝は手紙を読んでひどく悲しみ、何日も何日も何も食べませんでした。 やがて帝は、大臣たちを呼び寄せると、 そこで大臣たちが調べると、もっとも天に近い山は駿河の国(するがのくに→静岡県)にある山だとわかりました。 「そうか。では、士(つわもの→侍の事)を集めて、これをその山の山頂で焼いてほしい」 「わかりました」 その事からその山は『士(つわもの)が富む(とむ→たくさんいる)山』として、『富士山』と名付けられたそうです。 そして大臣が富士山の山頂で焼いた不老不死の薬が煙となって、かぐや姫のいる天へと昇っていきました。 その一部の煙が富士山にあった雪に降りかかり、その雪が不死の雪(→万年雪)となって、 今でも富士山の頂上に残っていると言われています。 おしまい おまけ 読者の「NS.MOOOON」さんの投稿作品。 おまけ 読者の「NS.MOOOON」さんの投稿作品。 |
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