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9月5日の百物語

ホタルで敵討ち

ホタルで敵討ち

日本語 ・日本語&中国語

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 「櫻井園子」  櫻井園子エス代表 《櫻井園子キャンドルWEB販売》

 むかしむかし、とても商売上手な旅の商人がいました。
 お金の詰まった行李(こうり→旅用の荷物入れ)をかついで、町へ品物を仕入れに出かける途中、お宮の近くで突然にお腹が痛くなりました。
 背中の行李をおろして中に入っている腹痛の薬を飲みましたが、痛みは全然おさまりません。
 ちょうど近くに小さな茶店があったので、商人は茶店の主人に頼みました。
「すまんが、かわや(→トイレ)を貸してくれないか」
「はい、いいですよ。店の裏にありますので」
 商人がかわやに飛び込むと、店の主人が何気なく行李を動かそうとしました。
(ちょいと端に、・・・うむっ、何と重い行李だ! さては、大金が入っているな)
 主人は、悪い考えを起こしました。
 ちょうどよい事に、店には誰もいません。
(しめしめ、今のうちに)
 主人が行李を開けてみると、思った通り大金が詰まっています。
(おうおう、小判がこんなにたくさん)
 主人はお金を取り出して、その代わりに店の前に転がっている石を拾い集めて行李に詰めました。
(これで重さは、前と変わらぬだろう)
 そして行李をしばりなおして元の場所へ置いた時、ちょうど商人が戻ってきました。
「いや、助かりました。おかげで、お腹が痛いのが治りましたよ」
 商人は主人にお礼の金を渡すと、行李をかついで茶店を出て行きました。

 元気に歩き出した商人は、しばらくして背中の行李が以前よりも軽くなった事に気づきました。
「まさか!」
 商人が行李をおろして中を開けてみると、中からはお金ではなく石が出て来たのです。
「やっぱりそうか。あの茶店の主人が、すり替えたに違いない!」
 金で出来た小判は石よりもはるかに重い為に、石をいっぱいに詰めても行李は前よりも軽かったのです。
 商人は急いで引き返すと、茶店の主人に怖い顔で言いました。
「やいやい! わしの大切な金を盗んだのは、お前だな!」
「と、とんでもない。親切にかわやを貸してやったのに、変な言いがかりはよしてくれ」
「言いがかりだと!
 わしがかわやを借りている間に、金と石ころを入れ替えやがって!
 まあ、誰だって出来心というものはある。
 黙って返してくれたら、それ以上は何も言わん。
 だが、あくまで盗ってないと言うのなら、役人に突き出してやる!」
「ふん。証拠もないのに、よくそんな事が言えるもんだ。さあ、商売の邪魔だ。帰ってくれ!」
「いいかげんにしろ! この盗人が! 店を調べれば、すぐにわかるんだぞ!」
 商人はそう言って、茶店の奥の部屋にあがろうとしました。
 奥の部屋には、商人から盗んだ金が置いてあります。
 もし見つかったら、言い逃れは出来ません。
(このままでは金を取り返された上に、わしは役人に捕まってしまう!)
 そこで茶店の主人は、そばにあった天秤棒(てんびんぼう)をつかむなり、商人の頭を力一杯打ち付けました。
「ぎゃーーっ!」
 主人は倒れた商人を何度も何度も殴りつけて、とうとう殺してしまいました。
 そして茶店の裏に大きな穴を掘って、その中へ商人を埋めてしまいました。
「やれやれ、これでひと安心」
 主人は胸をなでおろすと、自分の小さな店をながめました。
「客がいなくて助かったが、このまま客がいないのでは商売にならん。・・・よし、あの金で店を大きくしよう」
 主人はさっそく大工を呼んで、茶店を大きくしてもらいました。

 茶店が大きくなると、おもしろい様にお客が増えました。
 そこで手伝いの娘を何人かやとうと、可愛い娘がいるというので、茶店はますます大繁盛です。
(これはいい。おれにも、運が向いてきたぞ)

 さて、商人が殺された次の年の夏。
 夜になると茶店の周りを、たくさんのホタルが飛ぶ様になりました。
「ホタルが飛びかう茶店とは、なかなか風流だ」
 ホタルのおかげで、茶店は昼も夜も大賑わいです。
 ところがホタルはどんどん増えていき、やがてお客の目や口の中まで飛び込む様になりました。
 これだけホタルが多いと、風流どころではありません。
 ホタル目当てにやって来たお客たちも、気味悪がって帰ってしまいました。
「なんだなんだ? このホタルは、どこからやって来るのだ?」
 主人が不思議に思って調べてみると、なんと商人を埋めた土の中からホタルがわき出ているのです。
「これは困ったな」
 まさか地面を掘り返すわけにもいかないので、主人はお湯をわかして、そのお湯を土にかけてホタルを殺そうとしました。
 ジョボジョボジョボ。
 すると怒ったホタルたちは次々と主人の体にとまりはじめ、主人の目も口も鼻も耳も小さな体でふさいでしまったのです。
「た、助けてくれ・・・」
 そして主人は、息が出来ずに死んでしまいました。

おしまい

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