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第 100話
テングになった太郎坊
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むかしむかし、あるところに、子どものいない木こりとおかみさんがいました。
ある日の事、木こりが山へ行ったら、
「おんぎゃー! おんぎゃー!」
と、大きなスギの木の下でカゴに入れられた赤ちゃんが泣いていました。
「これは、神さまが授けてくださったにちがいない」
木こりは大喜びで、赤ちゃんを家に連れて帰りました。
その赤ちゃんはとても元気な赤ちゃんで、何でもパクパクとたくさん食べます。
木こりとおかみさんはこの赤んぼうに太郎という名前をつけて、それはそれは大切に育てました。
太郎はスクスク育って、やがて村一番のわんぱく坊主になりました。
太郎はどういうわけかドングリの実が大好きで、いつもドングリを口の中に入れては吐き出していました。
ある日の事、太郎の下に弟が生まれました。
太郎は、この赤ちゃんがお気に入りで、
「なあ、おらに子守りをさせてくれ」
と、言うので、おかみさんは太郎に赤ちゃんをおんぶさせると、太郎は赤ちゃんをおんぶしたままスルスルと高い木へ登っていくのです。
おかみさんはビックリして、
「あぶない! 早くおりて!」
と、さけびました。
すると太郎は今度は逆さまになって、あっという間に下へおりてきました。
おかみさんは、その素早さにあきれて、
「お前はまるで、テングさまみたいじゃ」
と、ためいきをつきました。
「なっ! おらがテング!?」
それを聞いた太郎はとてもびっくりしましたが、それ以上は何も言いませんでした。
その夜、太郎は木こりとおかみさんの前に両手をついて言いました。
「おっとう。おっかあ。
長い間、お世話になっただ。
おら、もう山へ帰らなければならねえ。
おらは、おっかあのいう通り、テングの子どもだから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
木こりもおかみさんもビックリして、声も出ません。
「おっとう。おっかあ。
いつまでも、たっしゃでいてくれ。
おら、おっとうとおっかあの事を、ずっと忘れねえだ」
太郎はそう言うと、山の方に走っていきました。
「これ、太郎!」
「太郎、お待ち!」
木こりとおかみさんは、太郎のあとを追って山へ行きました。
するとスギの木のてっぺんから、太郎の声がしました。
「おら、テングの太郎坊じゃ。
もう、家には戻れねえ。
でもそのかわり、毎年大みそかの夜には、行くからな」
それから木こりの家では毎年、大みそかの夜になるとおせち料理を作って座敷(ざしき)のとこの間へ置きました。
するとお正月の朝には、料理はすっかりなくなっているのです。
それから太郎がいつも吐き出していたドングリの実が大きく成長して、やがて立派なカシの木になりました。
木こりの家のまわりにはそんなカシの木が何本も生えていたので、木こりはカシの木長者といわれる村一番のお金持ちになったという事です。
おしまい
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