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第 116話
出石乙女(いずしおとめ)
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むかしむかし、出石(いずし)の里に、出石乙女(いずしおとめ)という女神が住んでいました。
出石乙女は天之日樫(あめのひぼこ)の娘で、美しさも家柄も良かったので多くの若い神々が結婚を申し込んだのでした。
この土地に、二人の若い兄弟神がいました。
あるとき兄神が、弟神に向かって尋ねました。
「私は出石乙女に求婚したが、駄目だった。お前はどうだ?」
「あはははっ、なさけないな、兄さんは。出石乙女といっても、ただの女ですよ。このわたしがその気になれば、簡単なこと」
弟神が言ったので、兄神は笑いながら、
「そうか。もし成功したら、私の背と同じ高さの瓶(かめ)に一杯の酒と、山海の珍味を全てやろう」
と、約束したのです。
弟神はこの事を母神に話すと、母神は山から藤の葛(かずら)を取ってきました。
そしてそれで衣服を織り上げて弟神に着させると、乙女の家に行かせました。
すると不思議な事に、弟神が乙女の前に出ると着ていた衣がいっぺんに藤の花に変わり、ついに弟神は乙女の心を得ることが出来たのです。
やがて二人は夫婦となり、毎日幸せに暮らしていました。
ところがこれをねたんだ兄神は、約束の品物を弟神におくらなかったのです。
すると、この様子を見ていた父神は、
「兄とはいえ、弟との約束を破るとは何事だ!」
と、約束を破った兄神に呪文をかけたのです。
そのため兄神は日増しにやせ細って、寝たきりになってしまいました。
そしてそれから兄神は、毎日の様に父神に泣いて許しをこうたのです。
それから八年後、父神は兄神を許して呪文もといたので、やがて兄神は元気になりました。
今でも出石町桐野(いずしちょうきりの)には、出石乙女を祭ったといわれる御出石神社(みづしじんじゃ)が残っています。
おしまい
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