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第 156話
彦左とカッパ
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むかしむかし、彦左という、とても力持ちの男がいました。
ある日の事、彦左が田んぼで一日中、草取りをしていると、
「おっちゃん、おっちゃん」
と、誰かが声をかけたのです。
彦左が振り返ると、そこにはカッパが立っていました。
「何か用か?」
彦左が尋ねると、カッパは、
「おっちゃん、力持ちだろう? おいらと相撲をとろうよ」
と、言うのです。
いつもの彦左なら相撲を受けて立つ所ですが、この時の彦左は、晩ご飯前でお腹を空かせていたので、
「相撲か。こんな田んぼの中ではやりにくい。どうせやるからには広い白良浜(しららはま)へ行ってやろう」
と、カッパを白良浜まで連れて行くことにしたのです。
そしてその途中で、彦左は自分の家へ寄って、急いで仏壇に供えてあるご飯を食べて腹ごしらえをしました。
むかしから、仏壇に供えたご飯を食べると、力が出てくると言われているからです。
さて、白良浜へ着いた彦左とカッパは、がっぷり四つに組みました。
彦左も力自慢、カッパも力自慢なので、長い長い勝負となりました。
(カッパのやつめ、何て力だ。仏壇のご飯を食ってなければ、とっくに負けているぞ)
一方、カッパの方も、
(人間のくせに、何て力だ。このままでは、頭の皿が乾いてしまう)
と、必死です。
やがて、カッパの頭の皿が乾いてしまい、だんだんと力が弱くなってきたカッパは、
「えいや!」
と、彦左に投げられてしまいました。
そして、いやというほど腰を打ちつけて動けなくなっているカッパに、彦左は言いました。
「どうだ、思い知ったか。これにこりて、これからは陸へ上がってきてはならんぞ。だが、もし万が一、この白良浜が黒くなり、沖の四双島(しそじま)に松が生えたら、そのときに上がってこい」
カッパは小さく頷くと海へと逃げ帰りましたが、次の日から、大仕事をはじめました。
カッパは白良浜に黒く墨を塗り、四双島に松の苗木を植えはじめたのです。
それを知った村人たちはびっくりしたが、彦左は平気で、ただニタニタと笑っていました。
それから何日かたって、白良浜が黒っぽくなり、四双島に松の苗木が植わったころ、ザブンと大波がきて、これらをすっかり洗い流してしまいました。
それからもカッパは何度も白良浜を黒く塗り、四双島に松の苗木が植えましたが、何回やっても大波が洗い流してしまうのです。
やがてカッパはあきらめて、二度と陸には上がってこなかったそうです。
おしまい
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