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5年生の日本昔話
歯をボロボロにされた鬼(おに)
むかしむかし、ある山奥(やまおく)に、一匹(1ぴき)の鬼(おに)が住んでいました。
鬼(おに)は、毎日のようにふもとの村にやってきて、畑をあらしまわり、家にある食べ物を手あたりしだいに食べるのです。
「そのうちに、わしらも殺されてしまうかもしれない」
「なんとかしないと、村はぜんめつだ」
村の人たちは、すっかり困(こま)ってしまい、畑仕事も手につきません。
そこで、寺の和尚(おしょう)さんに相談して、鬼(おに)が来ると寺へつれていき、酒を飲ませて、ごちそうを食べさせることにしたのです。
おかげで畑はあらされなくなりましたが、今度はごちそうづくりがたいへんです。
村人たちが交代でごちそうをつくり、酒を用意しなくていけないのです。
鬼(おに)は毎日寺へやってきて、大酒を飲み、腹(はら)いっぱいごちそうを食べたあと、本堂で大の字にねて、ものすごいいびきをかきます。
それを見ていると、なさけないやらくやしいやら、いっそひと思いに殺そうとしましたが、
「まて、まて。いくら鬼(おに)とて、いのちあるものを殺すわけにはいかない。わしにまかせておけ」
と、和尚(おしょう)さんがいうので、村人たちは、なんとかがまんしていました。
ある日のこと、和尚(おしょう)さんが、
「白い石を四角に切ったものと、竹の根を輪切りにしたものを用意するように」
と、いいました。
鬼(おに)は、いつものように地ひびきをたてながら、寺にやってきました。
「さあ、どうぞどうぞ」
和尚(おしょう)さんは、鬼(おに)を本堂にあんないすると、大きなおぜんの前にすわらせて、
「今日は酒のさかなに、とうふと竹の子を用意しました」
と、いって白い四角の石と、竹の根を輪切りにしたものを出しました。
それから、自分のおぜんの上には、本物のとうふと竹の子のにものをおいたのです。
鬼(おに)は、いつものように酒を飲み、とうふといわれた白い石をほおばりました。
ガシン!
ところが、その石のかたいこと。
ひっしになってかみくだいたら、鬼(おに)の歯がボロボロになってしまいました。
「なんてかたいとうふじゃ。・・・うん?」
ふと、和尚(おしょう)さんの方を見てみると、さもおいしそうに、とうふを食べています。
和尚(おしょう)さんは続いて、竹の子の煮物(にもの)を口に入れると、これまたおいしそうに食べました。
鬼(おに)も、おなじように竹の根の輪切りを口に入れましたが、かたくてかたくて、やっぱり歯がたちません。
それでも人間に負けてなるものかと、思いきってかみくだいたので、残っている歯もボロボロになってしまいました。
さすがの鬼(おに)もビックリして、和尚(おしょう)さんにいいました。
「こんなかたいものを、よく平気で食べられるもんだ」
すると、和尚(おしょう)さんはへいきな顔でいいました。
「なあに、人間の歯は鉄よりかたく、なんだってかみくだくことができる。なんなら、おまえさんの腕(うで)にかみついてみようか?」
「と、とんでもない!」
鬼(おに)は、あわてて手をふりました。
「そればかりじゃない。地面だってひっくり返すことができるぞ。あれを見てみろ」
和尚(おしょう)さんが麦畑(むぎばたけ)の方を指さしました。
すると、きのうまで黄色く実っていた麦は一本もなく、畑はすっかりたがやされて、黒ぐろとした土になっていました。
(なるほど、人間というのは、恐(おそ)ろしい力を持っているものだ。そうとは知らずに畑をあらしたり、ごちそうを食ったりしていたが、もしかして、わしを安心させて、つかまえるためかもしれないぞ)
そう思うと、鬼(おに)はきゅうにこわくなり、そのまま山奥(やまおく)に逃(に)げこむと、二度と姿(すがた)を見せることはなかったということです。
おしまい
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