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4年生の日本昔話
うぶめにもらったかいりき
むかしむかし、ある北国の町に、こんなうわさがひろまっていました。
「お城(しろ)のおほりばたの、ふるいやなぎの木のあたりに、赤んぼうをだいた、うぶめのばけものがあらわれるそうじゃ」
うぶめというのは、赤ちゃんをうむときに、死んでしまった女の人のおばけです。
「いつも、両手(りょうて)で、あかんぼうをだいているため、みだれたかみの毛をととのえることができん。そこで、とおりかかった人に、『かみの毛をととのえるあいだだけ、赤んぼうをだいていてもらいたい』と、たのむんじゃ。ところが、この赤んぼうも、おそろしいばけもの。だかれているうちに、ズンズン大きくなって、ついには人をのみこんでしまうのだと。くわばら、くわばら」
うわさがひろまると、町の人たちは夕方から戸をしめて、はやくねるようになりました。
そのため、お城(しろ)のおほりばたは、よるになるとだれひとりとおるものがありません。
そんな、あるばんのこと。
お城(しろ)のようじで、かえりのおそくなったさむらいが、はやく家にかえろうと、おほりばたをとおりかかりました。
なまえを、左内(さない)といいます。
左内は、体が小さいことから、
「ちびすけ左内」
と、なかまにからかわれていました。
ところが、左内は度胸(どきょう)があり、いつもおちつきはらっていました。
だから、うぶめのおばけがあらわれるというおほりばたも、へいきであるいていきました。
左内があるいていくと、
「もし、おさむらいさま」
おほりばたの、ふるいやなぎの木の下から、白いきものすがたの女が、赤んぼうをだいてあらわれました。
(これがうわさにきく、うぶめだな)
左内はあわてず、おちつきはらっていいました。
「なにか、わしに、ようでもあるのかな?」
「はい、かみの毛をととのえるあいだだけ、ちょっと、この子をだいていただくわけにまいりませんか」
「そんなことなら、おやすいごよう。ゆっくりと、かみをとかすがよい」
左内は、うぶめから赤んぼうをうけとりました。
赤んぼうは、かわいい女の子です。
口には、おしゃぶりをくわえていました。
「なかなか、めんこい赤んぼうじゃな。よしよし、ほらほら」
左内が赤んぼうをあやしていると、だんだん、おもたくなっていきました。
からだもグングンと大きくなって、石のようなおもさです。
赤んぼうのかおつきは、からだが大きくなるにつれて、おそろしくなってきました。
いまにも、左内にくいつきそうです。
「これはいかん!」
左内は刀をぬくと、やいばを赤んぼうにむけて、口にくわえました。
赤んぼうはさらに大きくなりましたが、刀のやいばにじゃまされて、こんどは小さくなりました。
そして、大きくなったり小さくなったりを、なんどかくりかえしました。
刀のやいばがなければ、赤んぼうは、ひとおもいに大きくなって、左内におそいかかったにちがいありません。
そのうちに、うぶめが、
「ありがとうございました。おかげで、このように、かみをととのえることができました」
と、ほほえみました。
みだれていたかみの毛が、きちんと、ととのえられています。
うぶめは、赤んぼうをうけとると、
「おれいに、なにをさしあげましよう」
と、左内にたずねました。
「いや。べつにれいなどいらんが」
左内がことわろうとすると、うぶめはニッコリして、
「お気づきでしょうが、わたしはこの世の者ではありません。どんな願(ねが)いも、かなえられます」
「そうか。では、遠慮(えんりょ)なしに」
左内は、少し考えてから言いました。
「わしはごらんのとおり、ちびすけ。なかまから、わらいものにされている。なにかもらえるなら、カをさずかりたいな。三十人力でも、五十人力でもよい」
左内がたのむと、
「それならば、五十人力をあげましょう」
うぶめはそういって、フッときえました。
しばらくたった、ある日のこと。
お城(しろ)に、江戸(えど)のすもうとりがやってきました。
すもうのだいすきな殿(との)さまが、よびよせたのです。
殿(との)さまは、けらいにいいつけて、すもうとりたちとすもうをとらせました。
けれど、だれひとりかてません。
あいてがすもうとりとはいえ、さむらいがコロコロとなげとばされて、なさけないかぎりです。
「だれか、かてるものはおらんのか?」
そこで左内が、
「それがしが、やってみましょう」
と、きものをぬいだので、殿(との)さまも、ほかのけらいたちもビックリです。
「左内ではむりむり。大けがどころか、死んでしまうぞ」
殿(との)さまがとめましたが、左内は、ふんどしひとつで土ひょうにあがると、いちばんつよいすもうとりとたたかって、
「どりゃあ!」
頭よりも高く、すもうとりをもちあげました。
そして、
「そりゃあ!」
大きなすもうとりを、ドスーン! と、なげとばしたのです。
「みごと! みごと! あっぱれじゃ!」
殿(との)さまは、大よろこびです。
「左内よ。ほうびとして、さむらい大将(だいしょう)にしてやろうぞ」
こうして左内は、えらいさむらいにとりたてられたということです。
おしまい
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