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6年生の江戸小話(えどこばなし)
ぞうきんとお年玉
むかし、ある所に、何事にも縁起をかつぐ旦那がいました。
そのおかげか、店はなかなかに繁盛しています。
ある年の大晦日(おおみそか)の事です。
旦那が、店の者に言いました。
「明日は、めでたいお正月じゃ。お正月の神さまをお迎えするのだから、いつもより、念入りに掃除をしなさい」
さて、この店には、「おたけさん」という、働き者の女の人がいました。
おたけさんは誰よりも良く働くのですが、そそっかしいのが玉に傷です。
「さあ、すみからすみまで、きれいにきれいに、ぞうきんをしないと」
おたけさんが張り切って、床の間を拭いていた時です。
「おたけや、すまないが、お使いに行ってきておくれ」
おかみさんが、おたけさんに頼みました。
「はーい。ただいま」
そそっかしいおたけさんは、ぞうきんを床の間に置いたまま、お使いに飛び出して行ってしまいました。
そして、お使いから帰ったおたけさんは、ぞうきんがけが終わっていないのを忘れて台所仕事を始めてしまいました。
さて、元旦の朝。
旦那が床の間の掛け軸くを、おめでたい『七福神(しちふくじん)』に、取り替えようとすると、汚れたぞうきんがポンと置いてあるではありませんか。
旦那は、カンカンに怒りました。
「正月と言うのに、こんな物を置くなんて縁起でもない。さては、おたけの仕業だな。おたけ!」
旦那はおたけさんを呼んで、ガミガミと叱りつけました。
「申し訳ございません。申し訳ございません」
おたけさんは、今にも泣き出してしまいそうです。
すると、とんちのきくこの店の番頭(ばんとう)が、口を挟みました。
「旦那さま。ぞうきんは縁起が悪いだなんて、とんでもありませんよ」
「何! 汚れたぞうきんなのに、縁起が良いとはどういう訳だ?!」
「はい。ぞうきんを当て字で書けば、蔵(ぞう→くら)と金(きん→かね)。蔵(くら)に金(かね)が貯まるという訳です」
番頭に言われて、旦那は大喜びです。
「なるほど! 確かにこれは、縁起が良いわ」
そこで旦那は、番頭とおたけさんにたくさんのお年玉をあげました。
おしまい
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