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6年生の江戸小話(えどこばなし)
ぬすびとの辞世
ある年の事、あちこちで盗みを働いていた大泥棒が捕まりました。
そして大泥棒の死刑(しけい)の日、役人が大泥棒に尋ねました。
「今まで世間を騒がせてきたが、お前の命も今日限りじゃ。何か言い残す事はないか?」
「はい。やりたい事は全てやりましたので、これと言ってございませぬが、お情けを頂けるのでしたら、この世ヘの別れに歌をよみたいと思います」
「ほほう、辞世(じせい→この世にお別れする前の)の歌か。それは見上げた心がけじゃ。では、よんでみろ」
「はい」
大泥棒は両手をひざに置くと、ぐっと顔をあげて、
♪かかるとき さこそ 命のおしからめ
♪かねて なき身と 思いしらずば
それを聞いた役人は、思わず手を打って感心しました。
「ふむ。前々から、おのれの命はないものと覚悟(かくご)をしておらなかったら、こうした時、さぞかし命がおしい事であろうとよんだのじゃな。さすがは天下の大泥棒。立派な歌じゃ」
そしてしばらく感心していた役人は、ある事に気づきました。
「あっ! お前、それは太田道灌(おおたどうかん→学問にすぐれた武将)の歌ではないか」
すると大泥棒は、にっこり笑って言いました。
「はい。これがこの世で最後の、盗みおさめでございます」
おしまい
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