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6年生の江戸小話(えどこばなし)
与太郎(よたろう)
急に、夕立が降ってきました。
するとごいんきょが、
「どしゃ降りだな。こうも急に降り出したんでは、かさを借りにくる人がいるだろう」
と、住み込みで働いている与太郎(よたろう)に言いました。
「わしが表にいては立場上、かさを貸さぬわけにもいかぬ。かと言って次から次へと貸したのでは、かさがいくらあってもたりぬ。そこでだ、誰かがかさを借りにきたら、お前がてきとうに断ってくれ」
間もなく、隣町の徳助(とくすけ)が走り込んできました。
「いや、急な雨で困っておる。悪いがちょっと、かさをお借りしたい」
すると与太郎は、ごいんきょに言われた事を思い出して、
「かさをいちいち貸していたら、いくらあったってたりやしねえ。家にはかさはないから、帰んな、帰んな」
と、冷たく追い返したのです。
それを聞いていたごいんきょが、与太郎に注意をしました。
「これ、与太郎。お前の断り方は、あまりにもひどいぞ。もう少し、良い断り方をしなさい。たとえば、『かさはあるにはあるが、骨と皮がばらばらになっていますので、たなのすみに放り上げてあります』とか何とかだ。良い断り方とは、そういうふうに言うものだ」
「あい、わかりました」
しばらくすると、隣の人がやってきました。
「この頃、家にネズミが出て困っております。そこでひとつ、おたくのネコを貸してもらえませんでしょうか?」
すると与太郎は、ごいんきょの言葉を思い出して言いました。
「そりゃあ、お安いご用だが、ネコは骨と皮がばらばらになりましたので、たなのすみに放り上げております」
「・・・・・・」
それを聞いた隣の人は、あきれた顔で帰ってしまいました。
ごいんきょは、与太郎にまた注意をしました。
「やれやれ、お前には困ったものだ。いいか、そう言う時はだな、『ネコはこの頃、フンのしまつが悪くて困りますので、裏の物置につないでおります。お役に立てないで、まことに残念でございます』と言うもんだ。わかったか?」
「はい、わかりました」
またしばらくすると、表通りの親方がやってきました。
「ちょいとすまんが、ごいんきょに、顔を出していただきたいのだが」
すると与太郎は、ごいんきょの言葉を思い出して言いました。
「ごいんきょはこの頃、クソのしまつが悪くて困ってますので、裏の物置につないでおります。お役に立たないで、まことに残念でございます」
おしまい
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