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5年生の日本民話
花散る下の墓(はか)
大阪府(おおさかふ)の民話
むかしむかし、大阪(おおさか)の町に、河内屋惣兵衛(かわちやそうべえ)という人がいました。
惣兵衛(そうべえ)の屋敷(やしき)には、年をとった一匹(1ぴき)のぶちネコがいます。
このネコを一人娘(ひとりむすめ)のお千代(ちよ)は、まだ子どものころから大変可愛(かわい)がっていました。
お千代のそばにはいつもネコがいるので、町の人は、
「お千代のむこさんは、ネコだよ」
と、かげ口をいっていました。
それを耳にした惣兵衛(そうべえ)は、こんなことでは娘(むすめ)がお嫁(よめ)にいけない、なんとかしないとと、いつも考えていました。
さて、春も浅い、ある晩(ばん)の事。
家の者が集まって、ひそひそ話をしています。
「ネコはすてても、必ず帰ってくるというからのう」
「かわいそうじゃが、殺すしかほかあるまい」
その日から、ぶちネコの姿(すがた)が見えなくなりました。
ところが、いく日かたったある晩(ばん)の事。
惣兵衛(そうべえ)がふと、まくらもとを見ると、ぶちネコがいます。
「おお、ぶちか。なんでお前は、姿(すがた)をかくしおった」
と、たずねると、ぶちネコはかなしそうにいいました。
「はい。わたくしがおりましては、おじょうさまのためにならないと申されましたので、このまま姿(すがた)を消そうかと思いました。ですが、そのようなわけにもまいりません。と、いうのも」
ここまで言うと、ネコはきちんと前足をそろえて、しんけんな顔で惣兵衛(そうべえ)に言いました。
「この屋敷(やしき)には、年をへた化けネズミが一匹(1ぴき)、住みついております。そいつがおじょうさまに見いって、おそばに近づこうといたしますので、わたしがお守りしておりました」
「おお、そうか。それは、すまぬことをした。だが、お前はネコでありながら、なぜネズミがとれぬのじゃ?」
「はい、だんなさま。ネズミをとるのがネコの役目なれど。この化けネズミだけは、とうていわたしの力ではかないませぬ。そこでお願いがございます。島の内の市兵衛(いちべえ)さまの家にとらネコが一匹(1ぴき)おります。とらとわたしとが力を合せれば、必ずその化けネズミを退治(たいじ)する事が出来ましょう」
そういったかと思うと、ネコの姿(すがた)は、かき消すようにきえてしまいました。
「ああ、夢(ゆめ)であったか」
あくる朝、惣兵衛(そうべえ)が夢(ゆめ)の事を妻(つま)に話すと、妻(つま)は、
「まあ。さようでしたか。じつは私(わたし)も同じ夢(ゆめ)を見ました」
と、言うので、さっそく惣兵衛(そうべえ)は、島の内の市兵衛(いちべえ)さんのところへ出かけて行って話しをしますと、市兵衛(いちべえ)はすぐにとらをかしてくれたのです。
とらをだいて家へ着くと、ぶちネコが玄関(げんかん)にすわって出むかえました。
二匹(2ひき)はなかよくご飯を貪べると、庭へ出て、今が盛(さか)りの桜(さくら)の下で舞(ま)いおちる花びらにじゃれあって楽しく遊んでいました。
夜になるとネコは夫婦(ふうふ)の夢(ゆめ)に現(あらわ)れて、二人に語りかけます。
「いよいよ、あすの夜は化けネズミを退治(たいじ)します。日が暮(く)れましたら、わたしたちを二階にあげてください」
そのあくる日。
夫婦(ふうふ)は二匹(2ひき)のネコを、日が暮(く)れるといわれたとおり二階にあげました。
家の者は、心配そうに夜のふけるのを待ちました。
とつぜん、二階で物音がしたかと思うと、ドシン、バタンと物を落すような音や、走りまわる音がします。
長い長い時がすぎ、やっと二階の物音がやんで、あたりはしーんとしずまりかえりました。
「それっ」
と、惣兵衛(そうべえ)が灯りを持って二階ヘかけあがると、なんとネコよりも大きなネズミがたおれていたのです。
大ネズミは、ぶちネコにのど首をかまれたまま死んでいます。
そしてそのぶちネコも、大ネズミに頭をかまれて死んでいました。
島の内のとらはと見れぱ、大ネズミの腹(はら)にかみついたまま虫の息です。
さっそく手厚(てあつ)い治療(ちりょう)をすると、とらは命をとりとめることができました。
惣兵衛(そうべえ)はとらネコをだいて、市兵衛宅(いちべえたく)へでかけ、あつくお礼をのべて帰ってきました。
死んだぶちネコは、桜(さくら)の木の根もとに、千代が墓(はか)を立ててほうむったという事です。
おしまい
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