|
|
4年生の日本民話(にほんみんわ)
足長手長
福島県の民話(みんわ)
むかしむかし、山々にかこまれた会津(あいず→福島県)の盆地(ぼんち)には、小さな村がいくつもありました。
村の人たちは、毎日朝早くから畑へ向かい、いっしょうけんめい働(はたら)きました。
♪大きくなあれ、ほーいやさー
♪たくさんなーれ、ほーいやさー
秋になると、畑には作物がゆたかにみのります。
「豊作(ほうさく)じゃ、豊作(ほうさく)じゃ!」
「今年も、たくさんとれたぞ!」
こうして会津(あいづ)の人々はよく働(はたら)き、ゆたかに幸せにくらしていました。
ところが、ある年のこと。
どこからともなく大きなおそろしい怪物(かいぶつ)が長い手足で雲をかきわけて、空の向こうから現(あらわ)れたのです。
その怪物(かいぶつ)は、足長手長(あしながてなが)という、夫婦(ふうふ)の魔物(まもの)でした。
夫(おっと)の足長は、その名のとおりとても足が長く、どんなに遠くても足をのばせばとどきます。
妻(つま)の手長は、おそろしく手が長く、すわったまま、どんな遠いところの物でもヒョイとつかむことができました。
この足長手長の夫婦(ふうふ)は、会津(あいづ)の土地を、なぜか気に入ってしまったようです。
妻(つま)の手長は、磐梯山(ばんだいさん→福島県の北部、猪苗代湖(いなわしろこ)の北にそびえる活火山。標高(ひょうこう)1819メートル)の頂上(ちょうじょう)にすわり、夫(おっと)の足長は、会津盆地(あいづぼんち)をひとまたぎしています。
「手長よ、そろそろ始めるか」
「はいよ、足長」
二人の魔物(まもの)は声をかけあうと、すぐに足長の足がグングンとのびはじめて、あちらこちらにある雲をつかんでは会津盆地(あいづぼんち)の上に集めます。
雲は畑しごとをしている人たちの頭の上をおおい、みるみるうちにあたりは暗くなっていきました。
「今度はおめえだ、手長や」
すると手長はその長い手で、猪苗代湖(いなわしろこ→福島県の中央部、湖面標高(こめんひょうこう)514メートル。最大深度(さいだいしんど)94メートル。周囲(しゅうい)63キロメートル。面積(めんせき)103平方キロメートル)の水をすくってばらまきます。
それはものすごい大つぶの雨となって、畑仕事をする人々の上にふりかかりました。
「あっはっはっは、見てみろ、あのあわてぶり!」
足長と手長のせいで、毎日毎日、会津(あいづ)は暗い雨の日がつづきました。
村の人たちは、ほとほとこまりました。
「このままではたいへんだぞ! おてんとさまが出ないおかげで、家のダイコンがさっぱり大きくならん」
「家もだ。このまま作物がくさっちまったら、おらたちどうなるだ?」
「うえ死にじゃあ。はらをすかして死ぬしかねえ」
「なんとか、雨がやんでくれんかなあ」
こんな村の人たちのようすを見て、足長手長は大喜(おおよろこ)びするのです。
そしてまた、何かイタズラをを考えたようです。
そのうちに雨はやんで、雲のすきまからお日さまが顔を出しました。
「おお、お日さまじゃ! これでたすかるぞ!」
「よかった、よかった」
大喜(おおよろこ)びの村人たちが、空を見上げたときです。
雲のすきまから、おそろしい怪物(かいぶつ)が顔を出していたではありませんか。
「あーっ、何じゃ、あれは!」
足長手長は、ふるえる村人たちを見ておもしろがると、
「あはははは。こうやって、太陽をかくしてやるよ」
と、手長が手をのばして、太陽の光をかくしてしまいました。
それだけではありません。
次のイタズラは、首をのばして作物に大きく息をふきつけ、作物を根元からふきとばすのです。
次から次へとイタズラをくりかえす足長手長を、村人たちはどうすることもできません。
そんなある日の事、ボロボロの衣(ころも)をまとった弘法大師(こうぼうだいし)という名のお坊(ぼう)さんが、この会津(あいづ)の村にやってきました。
「これはひどい、あまりにもひどい」
お坊(ぼう)さんは、あれはてた村のようすにおどろいて、村の人たちに話をききました。
「うーむ。それは聞きずてならんことじゃ。よし、わしの力でその魔物(まもの)をこらしめてやろう」
お坊(ぼう)さんは、すぐに磐梯山(ばんだいさん)の頂上(ちょうじょう)にのぼりはじめました。
そして頂上(ちょうじょう)に着くと、大声でいいました。
「足長手長! わしはここをとおりかかった旅の僧(そう)じゃ。姿(すがた)を見せんか!」
お坊(ぼう)さんの声に、足長と手長が現(あらわ)れました。
「わっはっはっは、なんともきたない坊主(ぼうず)じゃな」
「足長手長。わしのいうことをよく聞け! お前らは、どんな事でもできると思っとるだろうが、どんなにがんばってもできん事があるぞ」
「何をいう。この世の中に、わしらにできぬことは何一つないわ」
「そうか、ならばわしのいったとおりの事をやってみろ。もしできなければ、お前たちはすぐにこの会津(あいづ)の土地を出ていくのだ」
「よしわかった。どんな事かいってみろ」
「うむ。それはだな」
お坊(ぼう)さんは、ふところから小さなつぼをとりだしていいました。
「足長手長よ。お前らはずいぶんと大きななりをしている。二人一緒(ふたりいっしょ)に、こんな小さなつぼに入ることはできんじゃろう? どうじゃ、まいったか。わっはっはっは!」
「なにをぬかす。できたらお前の命をもらうぞ! いいな! ではいくぞ、手長」
「あいよ、足長」
二人は声をかけあうと、みるみるうちに小さくなってつぼの中へ入ってしまいました。
そのとたん、お坊(ぼう)さんはつぼのふたをしめると、衣(ころも)をちぎってしっかりとつぼをつつんでしまいました。
「こら! なんじゃあー! ここからだせ! ふたをあけろー!」
つぼの中で足長手長が、大声をあげながらあばれます。
「バカもの! 人々を苦しめたばつとして、お前ら二人はこのままずっと、このつぼの中に入っておれ!」
お坊(ぼう)さんはそのつぼを磐梯山(ばんだいさん)の頂上(ちょうじょう)にうめると、大きな石をのせて、二度と出てこられないようにしました。
つぼの中で、足長手長がくやしがってあばれておりましたが、お坊(ぼう)さんの術(じゅつ)がかかっているのか、つぼのふたはビクともしません。
やがて二人はあきらめたのか、しずかになりました。
「お前たちはこれからは、この山の守り神として祭ってやるから、村人たちのためにつくすがよいぞ」
こうして、足長手長は弘法大師(こうぼうだいし)によって、退治(たいじ)されたのです。
おしまい
|
|
|