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6月10日の日本民話
おじいさんとカニ
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むかしむかし、ある村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんが川へ行ったとき、一匹のカニをつかまえて来ました。
そしてカニをえんの下でかって、とてもかわいがっていました。
おじいさんはおいしいものがあると、まっ先にカニに分けてやりました。
町へ行ったときには、いつもカニの好きな焼きイモを買って来て食べさせるのです。
それでカニは、すっかりおじいさんになつきました。
おじいさんが、えんの下をのぞいて、
「ほら、じじ来たぞい。カニたろ出ろやい」
と、呼ぶと、カニははい出して来てごちそうをもらい、喜んで食べるのです。
ところがおじいさんがあまりカニをかわいがるものだから、おばあさんはだんだんカニをにくらしく思うようになりました。
(カニのやつが来てから、おじいさんときたら、おいしいものをカニにばかりやっておる。本当ににくたらしいカニだ。おじいさんのいないときに、うんといじめてやろう)
と、考えました。
そんなある日、おじいさんは町へ行って、なかなか帰って来ませんでした。
(よし、今日こそ、カニのやつをぶってやろう)
おばあさんはまきをかくし持って、カニのいるえんの下をのぞき、おじいさんの口まねをして、
「ほら、じじ来たぞい。カニたろ、出ろやい」
と、呼びました。
カニはおじいさんが帰って来て、いつものように何かおいしいものを持って来てくれたのだろうと思い、喜んでえんの下から出て来ました。
ところが立っていたのは大好きなおじいさんではなく、こわい顔をしたおばあさんだったのです。
カニはあわてて穴の中に逃げ込もうとしましたが、間に合いませんでした。
おばあさんがかくし持っていたまきで、ガツンとカニをたたいたのです。
おばあさんは殺すつもりではなかったのですが、当たりどころが悪かったのでしよう。
カニはもがき苦しんで、死んでしまいました。
「おお、これはたいへんなことをしてしまった!」
おばあさんはオロオロしましたが、じきに、
(まあ、死んでしまったものはどうにもならんから)
と、なんとおじいさんが帰って来ないうちに、さっさとカニをにて食べてしまったのです。
そしてカニのからをうらの竹やぶにうめて、おじいさんが町から帰って来ても知らん顔をしていました。
おじいさんはいつものように、カニの好きな焼きイモを持ってえんの下をのぞき、
「ほら、じじ来たぞい。カニたろ出ろやい」
と、カニを呼びました。
けれども、おじいさんが呼べばいつもすぐ出て来たカニは、いくら呼んでも出て来ません。
(おかしいな、どうしたんだろう? うらの畑にでも遊びに行ったのかな?)
おじいさんはそう思って、家のうらへさがしに行き、あちこち歩き回って何度も呼んでみましたが、カニは出て来ません。
(おらのカニたろは、どこへ行ってしまったんだ?)
おじいさんは悲しい気持ちがこみあげてきて、ただボンヤリと立っていました。
すると竹やぶの方からきれいな小鳥が一羽飛んで来て、おじいさんが立っているすぐそばの木の枝にとまって、
「ピイヨ、ピイヨ」
と、悲しそうに鳴きました。
そしてしばらくしてから、また竹やぶのほうへ飛んで行きました。
(めずらしい小鳥じゃ。こんなきれいな小鳥は、ここらにゃおらんはずじゃが)
おじいさんが見とれていると、その小鳥は何度も竹やぶの方からもどって来ては、おじいさんに呼びかけるように鳴くので、
(これはきっと、おらに何か知らせたがっているんだな)
おじいさんはそう思って、小鳥の飛んで行く方へついて行きました。
竹やぶの中にはだれがほったのか、土をほり返した跡がありました。
小鳥はそこを、足でしきりにかいていました。
おじいさんがそばに行って見てみると、なんとカニのこうらやちぎれた足が土の中から出かかっているではありませんか。
「だ、だれが、こんなひどいことを! ・・・ひょっとしたら、おらのばあさまでは?」
おじいさんはおこって、家にもどりました。
そしておばあさんに、
「よくもあんなかわいそうなことをしてくれたな!」
と、言うと、あまりのも悲しみに、そのまま倒れてしまいました。
おばあさんも少しは、自分のしたことを悪いと思っていましたが、これほどおじいさんが悲しむとは思っていなかったのです。
「おじいさん、おじいさん、おらが悪かった。どうかかんべんしてください。おどかすつもりでたたいたら、力が入りすぎたのか、死んでしまったので。初めから殺すつもりでやったのじゃなかったのに。悪かったね、かんべんしてください」
と、おばあさんは泣きながら、おじいさんにあやまりました。
おじいさんはおばあさんが心からあやまっているとわかると、そろそろと起きあがって、
「いいよ、いいよ」
と、言って、おばあさんをゆるしてやりました。
そして二人で、竹やぶの中にカニのお墓を建ててやりました。
それからというもの、きれいな小鳥が飛んで来ては、竹やぶの中で美しい声で鳴いたという事です。
おしまい