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6月24日の日本民話
竜宮へ行った海女
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むかしむかし、安乗村(あのりむら)の瓦屋(かわらや)のおばあさんが、海女(あま)に行ったままなかなかもどってこないので、村人たちは死んだと思って葬式(そうしき)を出しました。
それからしばらくたった頃、村の者が魚釣りをしていると、海の中から、
「ホーイ、ホーイ」
と、声がして来ました。
しばらくすると、今度は大きな声で、
「助けてくれー、助けてくれー」
と、いう声とともに、海女の磯桶(いそおけ)がういてきたのです。
その磯桶は、瓦屋のおばあさんのものでした。
村の若者は急いで海へもぐり、海の中にいたおばあさんを助けあげると、おばあさんは手に小さな桐(きり)の箱を持っています。
やっとのことでおばあさんを家に連れて帰ると、おばあさんはこんな事を言いました。
「大グラ島から四十間(約70メートル)ほど海の底にもぐったところに、石の鳥居(とりい)があったので、さらにもぐるとイソコ大神があったのじゃ。お参りをしたら、イソコさんがこの小さな桐の箱をくれたのじゃ、そして『人の前ではけして開けるでないぞ、開けずにおけば家が繁昌(はんじょう)するが、開けると七代のあいだ、盲目(もうもく→目の見えない人)の子が生まれてくる』といわれたのじゃ」
と、いいました。
聞いていた村人たちは桐の箱の中を見たくなり、おばあさんに見せてくれと何べんもたのみましたが、おばあさんは決して見せようとはしません。
そうしているうちに、庄屋(しょうや)さんがこのことを知り、庄屋さんは瓦屋のおばあさんのところにやってきていいました。
「ばあさんが海の中に行ったまま、もう帰って来ないかと思っていたのに、よくぶじで上ってきて喜ばしいことじゃ、なんでもばあさんは、小さな桐の箱を持って来たそうじゃが、いったい何が入っているのじゃ?」
「それがなあ、イソコ大神さんが、『開けるじゃないぞ、開けたら大変な目に会うぞ』といわれたので」
「ほう、それはどんな目にあうのだ」
「それがなあ、ちょっと開けただけでも、七代のあいだ盲目の子が生まれるというのだ」
「へえ、それではみんなの前で開けたらどうじゃ? そうすれば、責任はみんなにあるのだから、大丈夫でねえか?」
「うん、まあ、しかしなあ・・・」
庄屋さんと押し問答(もんどう)のすえ、瓦屋のおばあさんはとうとう小さな桐の箱をあける事になりました。
そしておばあさんがふたを開けると、あの小さな桐の箱の中から大きな蚊帳(かや)が出てきて、みるみるうちに八畳の間いっぱいに広がりました。
村人たちがおどろいて見とれていると、おばあさんがいません。
「おい、おい、ばあさんや?」
みんながよんでみても、返事がありません。
そこで、みんなでおばあさんをさがしまわると、おばあさんはふとんの中へもぐって体を丸くしていたのです。
「ばあさんよ、あの蚊帳はじゃまだから、なんとかもとどうりにならんのかなあ」
「ほれ、わしが箱を開けたらあかんといったやないか!」
「まさか、あの小さな桐の箱から、こんなに大きな蚊帳が出てくるとは思わんかったから」
「まあ、たしかにな。しかし庄屋さん、これをどうしたらいいのかのう?」
と、聞くと、庄屋さんはうでをくんで考えこんでいます。
村人たちみんなも、困った顔をしていました。
そこでおばあさんは、
「海の底のイソコ大神に行くのはもうごめんだから、陸の磯部(いそべ)さんにいってお頼みしてこよう」
と、いいました。
それには庄屋さんをはじめ、村人たちみんなも賛成したので、おばあさんは磯部さんへ行くことになりました。
すると、磯部さんが、
「桐の小箱と蚊帳を持って来い」
と、いうので、さっそく婆が持って行きますと、
「海の底のイソコさんのいわれることを聞かないから、こんな事になったのじゃ。今回は何とかするが、よく反省せいよ」
と、磯部さんは、おばあさんをしかりつけたのです。
それから後、瓦屋では家訓(かくん→家の決まり)として、
《約束は、絶対に守ること》」
と、言い伝え、家業(かぎょう)にはげみましたので、商売は大変繁昌(はんじょう)したという事です。
おしまい