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4年生の日本民話(にほんみんわ)

とっくりに入った男

とっくりに入った男
山梨県(やまなしけん)の民話(みんわ)

 甲斐(かい→山梨県(やまなしけん))殿(との)さまである武田信玄(たけだしんげん)と、越後(えちご→新潟県(にいがたけん))の殿(との)さまである上杉謙信(うえすぎけんしん)は、五回も川中島(かわなかじま)で合戦(かっせん)をしたことでよく知られています。
 その四回目(1561年9月10日)の合戦(かっせん)の一月ほど前、信玄(しんげん)のお城(しろ)がある甲府(こうふ)の町に、からだの大きな岸松金(きしのまつがね)という素人(しろうと)のすもうとりが、ふらりとやってきました。
 松金(まつがね)はあちこちの町へいっては、力じまんたちとすもうをとって負かしていました。
 合戦(かっせん)があった前の日の九月九日の夕方、松金(まつがね)は親しくなった町の人たちとお酒をのんでいました。
 すっかりごきげんになった松金(まつがね)は、町の人たちに、
「よし、みんなにおもしろい芸(げい)を見せてやろう」
と、いいだしました。
 そして松金(まつがね)は、空(から)になった酒どっくりの口に足の親指を入れて、チョコチョコと動かしたのです。
 すると不思議(ふしぎ)な事に、松金(まつがね)の足がとっくりの中にスーッと入っていくのです。
 やがて松金(まつがね)の大きなからだがとっくりの中に消えて、見えなくなってしまいました。
 見ていた者たちは、ビックリして、
「おーい。松金(まつがね)!」
 とっくりをまわしながら声をかけたり、とっくりをさかさにして、トントンと、手のひらでたたいたりしていましたが、松金(まつがね)は出てきません。
「松金(まつがね)、どこにおるんじゃ? とっくりの中には見えんぞ。おーい松金(まつがね)、どこにへばりついておるんじゃ?」
 とっくりの口に目をおしつけるようにしてのぞくと、とっくりの中から松金(まつがね)の声がきこえてきました。
 はるか山の遠くから、きこえるような声です。
「ここに長居(ながい)をしたが、今日でおさらばじゃ。みなの衆(しゅう)、たっしゃでなー」
「おいおい、おさらばといっても、どこへいくんじゃ?」
「それに、このとっくりの中から出てこなけりゃ、どこへもいけねえぞ」
 みんながとっくりを前にして、そんなことをいっていると、一人の男が、
「わしらの目の前でとっくりの中に入ったんじゃ。とっくりをわったら、松金(まつがね)はイモムシのようにころがりでてくるわ」
と、いって、とっくりをカシャンとわりました。
 ところが中は空っぽで、何も出てきません。
 それから松金(まつがね)は、二度と町の人たちの前に姿(すがた)をあらわしませんでした。
 じつはこの松金(まつがね)、越後(えちご)の上杉謙信(うえすぎけんしん)が信玄(しんげん)の城下町(じょうかまち)にはなった忍者(にんじゃ)で、町の事をいろいろさぐっていたといわれています。

おしまい

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