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10月5日の日本民話
  
  
  
  人にだまされたタヌキ
  和歌山県の民話 → 和歌山県情報
 むかしむかし、あるところに、人をだましては喜んでいるタヌキがいました。
  (たいくつだな。だれか来ないかなあ)
   タヌキは大きな木に腰をかけて、誰かが通りかかるのを待っていました。
   すると道のむこうから、お百姓(ひゃくしょう)さんがやってきました。
  (しめ、しめ)
   タヌキが何に化けようかと考えていると、お百姓さんが木を見上げて言いました。
  「この木もずいぶんと古くなったものじゃ。むかしは、あそこに大きな枝がのびていたのになあ」
   するとタヌキが、片足をうんとのばして、大きな枝に見せました。
  「あれ? ちゃんと枝があるぞ。おかしいなあ。さっき見たときはなかったのに」
   お百姓さんは、何度も首をふりました。
  (ふん。おれさまの足とも知らないで。バカなやつ)
   人をだませたので、タヌキはニッコリです。
   それを見て、お百姓さんが言いました。
  「そういえば、むかしはここにも枝がのびていて、子どものころによくのぼったものだ」
   お百姓さんが左の方を見ると、タヌキはあわてて、もう一つの足をのばしました。
  「あれれ。おら、頭がおかしくなったのかな? ちゃんと枝があるぞ」
   それを聞いたタヌキはますますうれしくなって、枝のようにのばした二本の足を、ゆらゆらとゆすってみせました。
   お百姓さんは、タヌキのつかまっている右手のほうを見て、
  「そうそう、あそこにも枝がのびていたんだ」
   するとタヌキは、右手をずんとのばして、枝に見せました。
  「それから、こっちにも枝がのびていたはずだ」
   お百姓さんは、タヌキのつかまっている左手のほうを見て言いました。
   タヌキは左手もうんとのばして、枝のように見せました。
   そのためタヌキは木の上で、大の字みたいになりました。
  (もう、そろそろいいだろう)
   お百姓さんはニヤリと笑うと、ありったけの声で、
  「わぁーっ!!」
  と、さけびました。
   タヌキはビックリして、のびきった手と足をはなしてしまいました。
   ドッスーン!
   タヌキは地面に落っこちて、いやというほどお尻を打ちました。
   そこへお百姓さんがとびかかると、タヌキをしばりあげていいました。
  「やいタヌキ、まいったか。お前なんかにだまされないぞ。だいたい、むかしからあんなところに枝なんかあるものか」
   するとタヌキは、泣きそうな声で言いました。
  「もう二度と人をだましたりしませんから、どうか助けてください」
  「よし、そんなら助けてやろう」
 お百姓さんがタヌキのなわをほどいてやると、タヌキは大喜びで飛び上がり、お尻をさすりながら山の方へ逃げていったということです。
おしまい