|
|
4年生の日本民話(にほんみんわ)
だんだらぼっち
三重県の民話(みんわ)
むかしむかし、志摩半島(しまはんとう)おきの大王島(だいおうじま)には、だんだらぼっちという一つ目の大男がすんでいました。
その大男はものすごい力持ちで、漁師(りょうし)たちのとった魚を船ごと持っていってしまうほどです。
だから、だんだらぼっちが来ると、村は大変(たいへん)なさわぎになります。
「だんだらぼっちだー! はやく逃(に)げろ!」
だんだらぽっちはお腹(なか)がすくと、村へやってきては、逃げ回(にげまわ)る村人たちや家をふみつぶしながら、食べ物を探(さが)して村中をあらしまわします。
こまった村人たちは、村の代表の網元(あみもと)の家に集まって相談しました。
「いったいどうしたら、だんだらぼっちが村に来なくなるだろう? このままでは、村はほろんでしまうぞ!」
網元(あみもと)が言うと、集まった村人の一人が言いました。
「そうじゃ、大きな落とし穴(おとしあな)をつくったらどうじゃ?」
「うーん、だんだらぼっちが落ちる穴(あな)となると、そうとう大きな穴(あな)をほらなくてはならんぞ。それに、どうやってその穴(あな)に落とすんだ?」
「それはだな、・・・まだ考えとらん」
また、みんなはこまってしまいました。
「そうだ。ええ方法(ほうほう)があるぞ! 酒をたらふく飲ますんじゃ」
「おおっ、それでどうするんじゃ?」
「わしらが穴(あな)の方へ逃(に)げるんじゃ。すると、だんだらぼっちが追っかけてきて、穴(あな)の中にストーンと」
「で、その後はどうするんじゃ?」
「えーと、・・・そうじゃ、魚のアミをぐるぐるまきにかぶせりゃええ」
と、いうわけで、村人たちはその夜のうちに、大きなあなをほりました。
そして、酒だるを五つも用意して、夜の明けるのを待ちました。
夜が明けると、だんだらぼっちが酒のにおいにつられてやってきました。
「おーい、だんだらぼっちがくるぞ」
木の上の見はりが酒だるの番に言ったときには、だんだらぼっちは、もう酒だるの近くまで来ていました。
「くんくん。いいにおいじゃ。おい、これは酒でねえか?」
だいだらぼっちにたずねられて、網元(あみもと)がいいました。
「へい、今日はめでてえ日なんで、だんだらぼっちさまに、これを飲んでもらおうと」
「で、きょうはなんの日だ?」
「へえ、それがその、じつは、あっしの生まれた日なんで」
「ふーん」
だんだらぼっちは、すぐに酒に手をのばしました。
「まあとにかく、それはめでてえな。うーん、これはうめえ、うめえ酒だ」
だんだらぼっちは、あっというまに、たるを空っぽにすると、
「うーい、もっと飲ませろーい」
よっぱらった、だいだらぼっちは、もっともっとと酒をさいそくします。
「へいへい、ただいま。さあ、酒はこっちで。どうぞ、どうぞ」
案内(あんない)する村人たちに、だいだらぼっちがついていきました。
「酒はどこじゃー!」
「あっちです」
網元(あみもと)が指さした方向ヘ、だんだらぼっちが足を出したとたん、
ドデーン!
「やったーっ!」
だんだらぼっちが穴(あな)に落っこちたので、村人たちは大喜(おおよろこ)び。
ところが、
「ういーっ、酒はどこじゃあー」
と、だいだらぼっちは、穴(あな)から立ちあがったのです。
「だめじゃ、穴(あな)が小さすぎた。逃(に)げろ!」
その日だんだらぼっちは、さんざんあばれまわって帰っていきました。
村人たちはその夜、また網元(あみもと)のところへ集まって相談しました。
「落とし穴(おとしあな)くれえじゃ、とてもだめじゃ。ほかに何かええ方法(ほうほう)はねえか?」
そこへ網元(あみもと)の子どもが顔を出して、こんな事を言いました。
「お父ちゃん、おらにいい考えがあるよ」
「なんじゃ。子どもが口をはさむ事ではないが。まあ、とにかく言ってみろ」
子どもは網元(あみもと)の耳に口をよせて、小声でひそひそといいました。
「どう?」
「うーん、子どもの考えとしては、まあまあじゃな」
と、いうわけで、村人たちはさっそく準備(じゅんび)をはじめました。
それから何日かたって、また、だんだらぼっちがやってきました。
「はらへったぞーっ、なにかうめえものないかー」
そういいながらやってきただんだらぼっちは、大きなかごを見つけて村人にたずねました。
「おい、こりゃあ、なんだ?」
「はい、これは考えるだけでもおそろしい、千人力の男が使うタバコ入れでごぜえます。二、三日前からこの村にやってきました。その大男はあなたなど、そばへもよれないほどの強いやつでございます」
それを聞いて、だんだらぼっちはビックリです。
「そんなやつが、この村にいるのか?」
だんだらぼっちがおそるおそる歩いていくと、こませぶくろという、太さが一かかえ半もある、大きな魚のえさぶくろがほしてありました。
「これは、なんじゃ?」
「へい、千人力の男がはく、ももひきでごぜえます。その男のでっけえことといったら、あなたさまなんぞ、まるで子どもみてえなもんでごぜえます」
「このおれが、子どもみたえだと・・・」
だんだらぼっちは、だんだんこわくなってきました。
そして今度は、大きなアミがほしてあるのが目に入りました。
「こ、これは、なんじゃあ?」
「これは、千人力の男がきる着物です。ですが、これでも短くて、足が半分ほど出てしまうのです」
「そ、そんなにでっけえのかっ!」
「でけえのなんのって。なんにしろあなたさまが、子どもみてえなものですから。それから千人力の男は、こんなこと言っていました。『おめえたちは小さすぎてたよりない。もっと大きいやつがいたら、マリのようにほうりなげて遊んでやる』と」
だんだらぼっちは、ブルブルとふるえ出しました。
「お、おれ、もう帰るわ」
と、言って、ふと足もとを見ました。
「こ、これは、なんだ?」
大きなむしろのようなものの上に、だんだらぼっちと村人たちは立っていたのです。
網元(あみもと)が、こたえました。
「ごらんのとおり、わらじでごぜえます」
「わわ、わ、ら、じ?」
「千人力の男がはくわらじでごぜえます。もうすぐ、ここへはきかえにくるとおもいますよ」
「ここへ、くるじゃと!」
こんな大きなわらじをはく男につかまったらたいへんと、だんだらぼっちはあわてて逃(に)げて行きました。
そして、二度と村へはやってこなかったという事です。
おしまい
|
|
|